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海洋保護区と共存

地中海チュニジアのサメ・エイ類とは?多様性と海洋保護(MPA)政策の現状

2026年6月21日

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チュニジアのサメ・エイ類は何種類?

地中海チュニジアのサメ・エイ類とは?多様性と海洋保護(MPA)政策の現状

チュニジア周辺海域は、地中海のなかでもサメ・エイ類が多い海域です。チュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見(2022)によると、チュニジア水域で過去約20年に確認された板鰓類は63種に達し、そのうち37種がサメ、26種がエイ類でした。しかも、それらの約53%がIUCN上の絶滅危惧区分に入ります(Enajjar et al., 2022)。

とくにガベス湾は、広く浅い大陸棚、海草藻場、大きな潮汐差、沿岸浅場を背景に、複数のサメ・エイ類の繁殖・育成場として機能しています。つまり、チュニジアは「サメがいる海」ではなく、サメの生活史の要所が残っている海です。また、チュニジア南東部、ガベス湾に位置する「ジェルバ島」は、美しいビーチやリゾート、そして壮大なサハラ砂漠への玄関口として知られ、Important Shark and Ray Areaにも位置づけられています。 (Enajjar et al., 2022)
一方で、チュニジアのサメ・エイは、厳格な保護一辺倒ではなく、小規模沿岸漁業との折り合いを取りながら守るという「利用と保全の調整型」に置かれています。
チュニジア全土の板鰓類水揚げは、2000~2020年平均で年約2,370トン、全国漁獲の約2%です。漁獲は主に刺網、三枚網、延縄、底びき網で発生し、南部沿岸ではヤジブカ(メジロザメ)やホシザメの仲間を対象にした季節的・小規模漁業も存在します。(Enajjar et al., 2022)

チュニジアのサメ・エイ保全はどうなっている?

チュニジアのサメ・エイの保全ガバナンスは多層的です。

国内法では 1994年漁業法を基礎に、2018年改正、1995年の漁業規則が運用の骨格をつくっています。そこへ Barcelona Convention のSPA/BD Protocol、GFCM のサメ・エイ保全勧告、CITES の国際取引規制が重なります。MPA も「全部立入禁止」の設計ではなく、ザンブラ国立公園(Zembra and Zembretta)のように一部を禁漁区(no-take zone)、残りを規制利用とする設計が見られます。

制度の方向性は明確に前進していますが、管理計画の空間情報や規制ゾーニングが公式データベースで欠落するなど、実効性評価の基盤がまだ弱いのが現状です。 (Lippi et al., 2024)

実務的な結論ははっきりしています。サメ・エイを守るために短期で取り組むべきことは、大きく三つあります。

  1. ガベス湾の繁殖・育成場を季節と海域で区切って守ること
  2. 水揚げを「サメ・エイ」とまとめず種ごとに記録すること
  3. 監視員の乗船や漁業者自身のサンプリングで混獲の実態をつかみ続けること

です。

中長期では、Kuriat で回っている共同管理をサメ・エイにも広げ、ジェルバ島のような重要海域を保護区・漁業規制・港のモニタリングへつなげていく。要するにチュニジアのサメ政策は、保護区を増やせば終わりではなく、漁業・海域・市場の管理を束ねて初めて効くタイプです。 (Saidi et al., 2020b)

地理的文脈と位置づけ

チュニジア周辺のサメ・エイを理解するには、海域を少なくとも三つに分けると整理しやすいです。

北部のラ・ガリット諸島やゼンブラ周辺

東部のハンマメット湾からシチリア・チュニジア海峡

シチリア・チュニジア海峡(シチリア海峡)は、地中海のシチリア島と北アフリカのチュニジアの間にある幅約145kmの海域です。地中海を西地中海と東地中海に分かつ境界であり、古くからヨーロッパとアフリカを結ぶ交通の要衝・文化の交差点として機能しています。

この海峡は、サメ保全の観点でも見逃せません。2026年5月中旬、シチリア海峡の沖合にある沈船でゴーストネット(放置漁網)の除去作業をしていたダイバーが、体長約4メートルのホホジロザメに遭遇し、その様子を撮影しました。映像は世界海洋デーに合わせて公開され、地中海における成体ホホジロザメの水中映像としては初とみられています。これまで地中海のホホジロザメの知見は、漁獲された死体や水面での散発的な目撃にほぼ限られてきました。研究者は、シチリア・チュニジア・リビアに囲まれたこの海域で、妊娠中のメス、幼魚、成体の両性が記録されてきたと述べており、同海域が本種の数少ない拠点のひとつである可能性を指摘しています。ただし、生態学的な結論を出すにはさらなる分析と監視が必要だとも慎重に付言されています。 (Healthy Seas, 2026)

南部のガベス湾

東部沿岸はシチリア・チュニジア海峡に接続する移行帯で、南部のガベス湾は、地中海としては例外的に広く浅い大陸棚と顕著な潮汐を持ち、海草藻場に支えられた高生産性海域です。

ジェルバ島の ISRA (Important Shark and Ray Areas)ファクトシートでは、ガベス湾で水深60mが海岸から約110km沖に位置し、半日周期の潮汐で最大約2m、広い藻場(ポシドニア・オセアニカ)があります。ガベス湾は「地域的重要性をもつ高い海洋生物多様性のホットスポット」で、複数のサメやエイの育成場だと位置づけられています。 (IUCN SSC Shark Specialist Group, 2023)

この地理条件が、チュニジアを「利用と保全のバランス型」にします。
理由は単純で、重要なサメ海域が沖合の観光ダイビング専用海域ではなく、実際の沿岸漁業・底生資源利用・採貝・船舶活動が重なる生計空間だからです。たとえばザンブラ国立公園でも、近年の規制空間分析は約36%が禁漁区、約64%が規制付き利用であり、小規模漁業が完全に排除されているわけではないことを示しました。モナスティル沖に浮かぶ美しいクリアット諸島(Kuriat Islands)で、保護は「共同管理ユニット」を通じた段階的実装として進められています。また、ウミガメの保護区としても知られている。
チュニジアのサメ保全は、保護区を一枚置くというより、漁業者の生計を脅かさずに生きものへの圧力を下げる設計となっています。 (Lippi et al., 2024)

主要種と生態

チュニジア水域で確認された板鰓類は63種で、地中海全体で知られる種の約71.6%に相当します。南部水域は沿岸性のギターフィッシュ類・バタフライレイ類が目立ち、北部は深海性サメが多いという南北差があります。また、チュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見(2022)は、ホホジロザメ、アオザメ、エンジェルシャーク類、ギターフィッシュ類、バタフライレイ類など、保全上重要な種が一通りそろうことを示しています。研究と現場管理の観点では、「全部載せ」よりも、漁業と保全の衝突点に立つ代表種を押さえるほうが実務的です。 (Enajjar et al., 2022)
和名は種によっては国内で定着した名称がないものも多いため、下表では研究・国際保全文脈で通じるカタカナ一般名を併記しました。

学名 和名 IUCN分類 チュニジア周辺での主な生息域 生態的役割 保全上の懸念点
Carcharodon carcharias ホホジロザメ CR

※注

沿岸~外洋、中央地中海接続域 最高次捕食者 極めて稀、偶発捕獲と広域移動ゆえ国内単独管理が難しい
Isurus oxyrinchus アオザメ CR 外洋~沖合、延縄で遭遇 高次遊泳性捕食者 漁業死亡と国際取引圧力
Carcharhinus plumbeus ヤジブカ(メジロザメ) EN とくにガベス湾沿岸浅場・育成場 沿岸上位捕食者 育成場を狙った漁業、未成熟個体・成体雌の捕獲
Mustelus mustelus コモンスムースハウンド VU 南部浅場、底生域 底生無脊椎捕食者 小規模漁業での利用圧、成熟の遅さ
Mustelus punctulatus ホシザメの仲間 VU 南部~東部沿岸 底生の中位捕食者 刺網・延縄での漁獲
Prionace glauca ヨシキリザメ CR 沖合・外洋 遊泳性捕食者 広域回遊種で国際管理依存が大きい
Hexanchus griseus カグラザメ LC 北部寄り深場 深海性上位捕食者 深場漁業・底びき混獲
Glaucostegus cemiculus ブラックチン・ギターフィッシュ EN ガベス湾の沿岸浅場 底生捕食者・沿岸機能種 沿岸網漁に非常に脆弱、育成場圧力
Rhinobatos rhinobatos コモン・ギターフィッシュ EN 南部沿岸・砂泥底 底生捕食者 ギルネット・底層漁法の圧力
Squatina squatina エンジェルシャーク CR 底生・砂泥底 待ち伏せ型捕食者 地中海全域で激減、混獲に弱い
Raja radula ラフスケート EN ガベス湾~沿岸底生域 底生中位捕食者 分布域が比較的限定、底層漁業に脆弱
Gymnura altavela スパイニー・バタフライレイ CR 南部浅場 底生捕食者 沿岸漁業と繁殖場劣化
Aetomylaeus bovinus ブル・レイ CR 沿岸~浅海 底生生物・魚類食 遅い生活史と広域減少
Mobula mobular デビルレイ EN 沖合~外洋 プランクトン食の大型遊泳性種 低頻度遭遇、広域移動と偶発捕獲

出典: チュニジアでの出現・海域別の出現頻度・IUCN区分はチュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見(2022)の種一覧に基づき、ジェルバ島の重要性はISRAファクトシートで補足 (Enajjar et al., 2022; IUCN SSC Shark Specialist Group, 2023)

とくに重要なのは、ヤジブカ(メジロザメ)、ブラックチン・ギターフィッシュ、コモン・ギターフィッシュ、エンジェルシャーク類です。ジェルバ島ISRA は、同海域に絶滅危惧種、分布制限種、繁殖域が重なると整理し、ヤジブカ(メジロザメ)の繁殖域を明示しています。加えてチュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見(2022)では、ガベス湾沿岸が少なくとも4種の育成場として機能していると述べています。ここが保全のど真ん中です。 (IUCN SSC Shark Specialist Group, 2023; Enajjar et al., 2022)

漁業と利用

チュニジアの漁業は、GDP比で見れば大きな産業ではありませんが、沿岸社会にとっては軽視できません。FAOの国別水産概況では漁業就業者は2017年に46,218人、GLOBEFISHが2026年に作成した概況では2023年の漁業・養殖生産は128,988トン、漁業由来GDPは全GDPの0.8%と整理されています。つまり、マクロ経済では中規模でも、沿岸雇用・港湾経済・地域市場では十分に大きい。だからサメ保全は、机上の「禁漁推奨」だけでは刺さらないわけです。 (FAO, n.d.; GLOBEFISH, 2026)

板鰓類の位置づけを全国漁業のなかで見ると、平均で全国水揚げの約2%、2000~2020年平均で年約2,370トンです。長期的な傾向は概して増加傾向ですが、2012年と2017年に例外的な減少がありました。また歴史的にはガベス湾がチュニジア国内の板鰓類水揚げの60%以上を担ってきた一方、2008~2020年には東部(GSA13)の比重も増し、2020年には全国の49%以上を占めるまでに拡大しました。
ここから読めるのは、「ガベス湾だけ見ていればよい」ではなく、東部海域への漁業圧シフトも追わないと危ないということです。 (Enajjar et al., 2022)

指標 内容
全国板鰓類水揚げの比率 全国水揚げの平均約2%
2000~2020年平均 年約2,370トン
長期傾向 全体として増加傾向
例外的落ち込み 2012年、2017年
地域構成の変化 ガベス湾優位が続く一方、東部(GSA13)の比重が上昇し、2020年に49%以上

出典: Enajjar et al., 2022(チュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見)

チュニジアの板鰓類:その現状と生態、生物学的知見(2022)によれば、板鰓類の水揚げは主に小規模沿岸船による刺網、三枚網、延縄で、次いで底びき網から生じます。さらに、南部沿岸では夏季に“Garracia”“Gattatia” と呼ばれる特定の刺網を使って、ヤジブカ(メジロザメ)やスムースハウンド類を狙う小規模漁業が存在します。
つまり「ほぼ混獲」ではあるが、実際には種と季節を狙い撃ちする漁業もある、という二重構造です。 (Enajjar et al., 2022)

漁業圧の中身をみると、かなり重いです。ガベス湾の底びき網では、板鰓類の混獲が総水揚げの5.42%を占めました (Enajjar et al., 2022)。浮延縄の比較研究では、主対象のヤジブカ(メジロザメ)の漁獲率が約10年で42.21%低下し、より大型で、しかも成体雌へとシフトしたことが示されました (Saidi et al., 2019, 2020a)。さらにハタ類を対象とする底延縄では、板鰓類が尾数ベースで総漁獲の約50%を占め、狙いのハタ類(44.15%)を上回りました (Saidi et al., 2023)

ここまで来ると混獲は「おまけ」ではなく、漁業システムそのものの一部です。

市場・利用については、全国の製品別公式統計は見当たりません。
ただし利用の基本は食用で、研究文献ではサメ製品として肉、皮、肝油、軟骨、ひれまで利用されうることが指摘されています。
一方、ガベス湾の底延縄研究では、低い商業価値や小型サイズのために11.34%が投棄されたと報告されており、現場では「全部高値で売れる」どころか、売れる個体と捨てられる個体が混在しています。
そのため、食用市場・副産物・廃棄の三つを分けて追うのが正解です。 (Saidi et al., 2023)

保全政策とMPAガバナンス

チュニジア国内の基礎法は、1994年の漁業法(Law No. 94-13)です。
FAOLEX / ECOLEX の要約では、この法律は「各漁場での漁獲努力を組織し、水生種の利用を合理化し、それらとその生息環境を保護する」ことを目的としています。その後、2018年法(2018-30)がこれを補完しました。現場運用では、1995年漁業規則(Decree No. 95-1939)が漁業活動の具体的なルールを定めています。国内法の基調はかなり以前から「開発だけ」ではなく、「資源保護込み」です。問題は、条文の存在より監視と種ごとの実効性の弱さです。 (Loi n° 94-13, 1994)

国際枠組みでは、Barcelona Convention の SPA/BD Protocol と GFCM が実質的に効いています。
SPA/BD Protocol は 1995年採択、1999年発効で、SPAMI 制度と種保護を支えます。
Annex II(絶滅危惧種の厳格保護)と Annex III(規制利用)は、2025年12月にカイロで開かれた第24回締約国会議(COP24)で改定が採択され(Decision IG.27/7)、2026年5月4日に発効しました。この改定では、CITES など最新の国際基準に合わせて、キクザメ(Echinorhinus brucus)、アイザメ(Centrophorus uyato)、ヨロイザメ(Dalatias licha)の軟骨魚類3種とカイメン類6種が Annex II に新規追加され、さらにオナガザメ(Alopias vulpinus)、ヤジブカ(Carcharhinus plumbeus)、アイザメ属(Centrophorus spp.)、ヨシキリザメ(Prionace glauca)の4種が Annex III から Annex II へ格上げされました。ここで注目すべきは、この格上げのうちヤジブカ、アイザメ属、ヨシキリザメについて、チュニジアが留保(reservation)を付けている点です。ヤジブカはまさにガベス湾の小規模漁業が季節的に狙う種であり、国際的な保護強化と国内漁業の実情がぶつかる場所が、制度文書のうえにそのまま現れています。GFCM Recommendation 36/2012/3 は、Barcelona Protocol Annex II の板鰓類について、生きたままの放流、船上保持・転載・水揚げ・販売の禁止を求め、ログブック記録と報告も要求します。

さらに 2018年以降、シャークフィニング禁止と、ヒレを付けたまま水揚げする原則(fins naturally attached)が強化されています。 (UNEP/MAP, 2026)(SPA/RAC, n.d.)

CITES の影響は、主に国際取引の入口で表れます。
CITES と FAO は、Appendix II に掲載されたサメ・エイの取引について、持続可能性を損なわない証明と法的取得の確認を各国に求める体制整備を進めてきました。
近年の CITES 関連資料や実装サイトでは、アオザメ類やギター/ウェッジフィッシュ類が Appendix II の枠組みで扱われており、チュニジアにとっても輸出・再輸出・検査能力が課題になります。ここは「海で守る」だけでなく、港と税関で守る話です。 (CITES, 2014)
EU はチュニジアの国内法を直接書き換えるわけではありませんが、地域ルールの設計者兼資金供給者として強く効いています。2023年に EU と地中海・黒海の近隣国は GFCM の場で管理・監視の強化に合意し、EU は GFCM 2030 Strategy に年800万ユーロの助成を続けています。
したがって、EUの影響は「EU法をチュニジアに適用する」より、GFCM と地域プロジェクトを通じてチュニジアの実装を押し上げる形だとみるのが正確です。これは制度論的にかなり重要で、チュニジアのサメ政策は国内法だけを見ても全体像はつかめないということです。 (European Commission, 2023)

主要MPAと関連海域

サイト

設立年

面積

保護レベル・主要規制 管理主体 管理実態の要点
Zembra and Zembretta 1973 保護開始/1977 国立公園令(SPAMI 2001) 総面積 5,090ha / 海域 4,700ha 国立公園。公式規制文書では Zone A・B が no-take、Zone C は規制付き利用 APAL・森林総局 近年分析では no-take は全体約36%、残り約64%は規制付き利用。WDPAなどの公式DBにゾーニング情報の欠落があり、評価しにくい
La Galite Archipelago 1995(SPAMI 2001) 総面積 2,715ha / 海域 1,900ha “No fishing area”。La Galite 島から1.5海里帯で禁漁 APAL・森林総局 違法漁業・密猟・レジャー係留の圧力が残る
Kneiss Islands 1988(SPAMI 2001) 総面積 8,400ha / 海域 5,850ha 自然保護区。APAL による管理計画あり APAL・森林総局 干潟・採貝・小規模漁業が重なる多利用サイトで、完全閉鎖型ではない
Kuriat Islands

法的指定を整備中

提案海域 約3,946ha 将来的な海洋・沿岸保護区(marine and coastal protected area)。共同管理ユニットで管理計画を実装中 APAL・Notre Grand Bleu・SPA/RAC等 チュニジアで最も進んだ参加型ガバナンス(participatory governance)の試験地
ジェルバ島ISRA 2023 compendium 掲載 5,178.2km² MPAではないが、重要なサメ・エイ海域として、繁殖機能・分布制限種・絶滅危惧種を根拠に提示 IUCN SSC Shark Specialist Group 等 今後の MPA設計や漁業規制の優先順位づけに使うべき科学基盤

出典: Zembra、La Galite、Kneiss の年・面積・管理主体は SPA/RAC の SPAMI プラットフォーム、Zembra の実際の保護比率は 2024年の空間規制分析、Kuriat の管理進捗と共同管理は SPA/RAC / Together for the Med、ジェルバ島は ISRA factsheet に基づく。 (SPA/RAC, n.d.; Lippi et al., 2024)

政策比較

枠組み 何を規制するか チュニジアへの実務的影響 限界
国内法 94-13 / 2018-30 / 95-1939 漁業許可、漁法、資源保護、操業ルール 監視・取締・港湾管理の法的土台 種別管理と執行能力がボトルネック
Barcelona SPA/BD Protocol SPAMI、Annex II/III 種保護 MPA設定と地域共通の種保護基準 国内実装の強弱が出る。留保により一部種が適用外になりうる
GFCM 勧告 高保護種の保持禁止、記録・報告、フィニング禁止、緩和策 実務上もっとも直接的。漁業データ収集と放流義務に直結 現場遵守と監視コストが高い
CITES 国際取引許可、NDF、法的取得確認 港・税関・輸出管理が重要になる 国内市場や非公式流通までは自動で止まらない
EU主導地域協力 GFCM資金、管理・監視の地域標準化、MPA支援 ルール実装の財政・技術面を押し上げる 直接執行権は持たない

出典: FAOLEX / ECOLEX、SPA/RAC、GFCM、CITES、欧州委員会資料。 (Loi n° 94-13, 1994; SPA/RAC, n.d.; CITES, 2014; European Commission, 2023)

利害調整と政策提言

ガベス湾の典型的な対立は、「重要生息場を残したい」対「そこでしか漁が成り立たない」です。
2020年の延縄研究は、現地漁業者が漁獲増を狙って1バスケットあたりの針数を増やし、餌も変更した結果、主対象のヤジブカ(メジロザメ)の漁獲率自体は42.21%低下しつつ、より大型で、主に成体雌へシフトしたことを示しました。

研究者側がサークルフック(circle hook)を試しても、主対象種ヤジブカ(メジロザメ)には決定打にならず、論文はむしろ努力量制御、重要生息場の時空間閉鎖、サイズ管理を提言しています。つまり、漁具の変更だけでは足りず、空間と季節のルールまで踏み込まないと解けません。 (Saidi et al., 2020a, 2020b)

もう一つの対立は、主対象魚種の漁業がサメ・エイ漁業になってしまう問題です。
ガベス湾のハタ類底延縄では、板鰓類が尾数ベースで総漁獲の約50%を占め、狙いのハタ類を上回りました。しかも一部は小型で低価値なため捨てられます。これは保全的には見えない死亡(hidden mortality)、漁業経済的には効率低下です。保全側と漁業側が同じ現象を別の言葉で見ているだけで、実は利害は完全対立ではありません。
無駄な混獲を減らせば、保全と収益性が同時に改善する余地があります。 (Saidi et al., 2023)

協働の成功例としては、Kuriat Islands の共同管理がもっとも使いやすいです。Kuriatプロジェクトは、APAL と NGO の Notre Grand Bleu を軸にした共同管理ユニットを組み、調査、装備、来訪者啓発、関係主体の訓練を束ねるパイロット事業でした。2020年時点の紹介でも、行政・研究機関・地域 NGO の協働により、ウミガメ保全を軸に実効的な共同管理が進んだことが示されています。直接にはサメ案件ではありませんが、チュニジアで「共同管理が回る」前例として、サメ・エイにも十分転用可能です。 (Together for the Med, 2020)

地域レベルの協働では、MedBycatch が重要です。これは 2017~2022年にモロッコ、チュニジア、トルコ、後にイタリア・クロアチアでも実施され、監視員乗船、港での聞き取り、自己サンプリング、緩和策試験、識別ガイド整備を通じて、脆弱種の偶発捕獲を共通手法で可視化しました。ここで大事なのは、「研究者が見る」だけでなく、漁業者をデータ収集と改善の主体に入れたことです。サメ保全は、この方向に寄せたほうが現実的に機能します。 (GFCM, n.d.)

短期提言としては、まずガベス湾の育成場・繁殖場の季節閉鎖です。対象はヤジブカ(メジロザメ)、ギターフィッシュ類、ラフスケートなどで、ジェルバ島ISRA や既存の繁殖研究を重ね、春夏の限定的閉鎖や漁具制限を導入するのがよいです。次に、港湾での種レベル統計を義務化し、少なくとも「ギターフィッシュ類」「エンジェルシャーク類」「アオザメ類」といったひとまとめの区分ではなく、種ごとに記録すべきです。最後に、出荷・輸出が絡む種はCITES 対応のトレーサビリティを整え、港・市場・税関をつなぐ必要があります。 (IUCN SSC Shark Specialist Group, 2023)

中長期提言としては、Tunisia towards 30×30 をサメ・エイの優先海域に接続することです。2026年に始動したこの
プロジェクトは、法的に位置づけられた海洋・沿岸保護区(marine and coastal protected areas)の拡充と管理効果の向上を狙っています。ここに ジェルバ島のような ISRA を重ねれば、単なる面積達成ではなく、サメの生活史機能を押さえた 30x30 にできます。加えて、公式DBに欠けているゾーニングや漁法規制のGISを整備しないと、保護区の見かけの面積だけ増えて中身が空洞化するので、まずデータ基盤から直すのが先です。 (SPA/RAC, 2026)

研究が不足している分野と今後の調査

チュニジアの板鰓類研究では、種ごとの漁獲量や分布を把握できるデータが不足しています。
Enajjar et al.(2022)は、海上と陸上の双方でデータ収集を改善し、チュニジア全海域の分布図、種別の水揚げ統計、漁法別の廃棄量を把握する必要があると指摘しています。

チュニジアでは63種の板鰓類が確認されています。しかし、港の水揚げ統計は複数の種を大まかな分類群としてまとめることがあり、「どの種が、どこで、どれだけ減っているのか」を追うことが難しい状態です。種別データが粗いままでは、保全策や漁業管理の効果も正確に判断できません。 Enajjar et al.(2022)

地域による研究の偏りもあります。

Enajjar et al.(2022)が1971~2022年に発表された板鰓類研究254件を調べたところ、東部海岸を対象とした研究は少ないことがわかりました。
繁殖に関する情報は39種で報告されていますが、近年のデータがあるのは16種程度です。年齢や成長に関する研究も、南部沿岸に生息する8種程度へ偏っています。

チュニジアはサメやエイの種類が多い国ですが、それぞれの種が何歳で成熟し、いつ、どこで繁殖するのかが十分にわかっているわけではありません。地味に見える部分ですが、漁獲量や禁漁期間を決めるうえでは欠かせない情報です。 Enajjar et al.(2022)

海洋保護区(MPA)については、保護区の内部でどのような規制が行われているのかを確認できる空間データが不足しています。
Lippi et al.(2024)は、Zembra and Zembrettaを例に、公式データベースへノーテイクゾーンの位置や範囲が十分に記録されていないと指摘しました。そのため、保護区のうち、実際に漁業が禁止されている場所や、規制の強さを外部から評価することが困難です。

サメの育成場と漁業規制の範囲をGIS上で重ねて確認できなければ、保護区がサメを守れているのかも検証できません。MPAは設置数だけでなく、保護区内のゾーニングと規制内容を確認できる情報が必要です。 Lippi et al.(2024)
今後は、まずBRUVS、eDNA、港での水揚げ調査を組み合わせ、ガベス湾や東部海域で、どの種がどの場所を利用しているのかを調べる必要があります。

2025年には、チュニジアの研究者がガベス湾でBRUVSを使い、サメが集まる場所や重要生息場の確認を進めていると報告されました。シチリア海峡で行われたゴーストネット除去活動でも、eDNAの採取と水中モニタリングが同時に行われています。

一つの調査方法だけに頼らず、映像、海水中のDNA、港の漁獲記録を組み合わせることで、船からの目視や水揚げ統計だけでは見落とされる種も確認しやすくなります。 Save Our Seas Foundation(2025)

繁殖期や育成場を守るには、標識調査や衛星追跡も必要です。成体の雌、未成熟個体、新生仔が、季節ごとにどの海域を利用するのかがわかれば、禁漁期間や漁具規制を設ける場所を具体的に検討できます。
市場や輸出段階の調査も欠かせません。形を失った肉やヒレは、外見だけで種を判別することが困難です。遺伝子解析を用いて流通している種を特定し、CITES対象種を含むサメが、どこで漁獲され、どの経路で取引されているのかを追えるようにする必要があります。

チュニジアでは、サメの重要生息場の保護、漁業者との調整、MPAの管理改善が同時に進められようとしています。
保護区を増やすだけでサメが守られるわけではありません。どこにサメが集まり、どこで漁業と重なり、どの規制が実際に守られているのかを継続して調べる必要があります。
チュニジアは、地中海のサメ保全が現場で本当に機能するのかを見るうえで、今後も注目したい国です。 SPA/RAC(2026)

参考文献

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  3. Enajjar, S., Saidi, B., & Bradai, M. N. (2022). Elasmobranchs in Tunisia: Status, ecology, and biology. In Sharks – Past, Present and Future. IntechOpen. https://www.intechopen.com/chapters/84781

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シャーク・アクティビストReinoとにゃぶり

シャーク・アクティビストReino

シャーク・アクティビストのReinoです。 サメ専門ブロガー&YouTuberとしてサメの生態や保全についてお伝えしています。 佐賀県唐津市生まれ、東京育ち。 慶應義塾大学文学部卒業。 保有資格は環境社会検定試験(eco検定)、日本さかな検定(ととけん)3級🐟 関心があるのは、哲学、サメの保全、環境倫理学、水産学、SDGs14。 海やサメ以外で好きなのは、橋本涼さん(B&ZAI)。海属性の人が好き。

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