サメの生態系での役割とは
サメは高い栄養段階にいる高次捕食者であり、生態系・群集の要となる種です。
高次捕食者であるサメたちが栄養段階の低い下位生物群(サメより小さな魚)を食べることで、生態系・群集のバランスを保つという重要な役割を担っています。
また、サメによる下位生物群の消費は数のバランスを保つということだけではありません。
高次の捕食者であるサメが、下位生物群のうち、弱っている個体や病気の個体など、生存競争に勝てない生き物を食べることで、健全な生き物を生き残らせるという役割を果たすのです。
このように、サメには頂点捕食者として、
- 海洋の生態系・群集のバランスを保つ
- 種の多様性を保つ
という重要な役割があるのです。
サメが減ると海の食物連鎖はどうなる?
サメの減少はその海域の食物連鎖に大きな変化をもたらします。
トップダウン効果
サメが減ると海の食物連鎖はどうなるのでしょうか。
高次捕食者であるサメたちが減少することで、その下に位置する中型魚たちの捕食者がいなくなります。
そうなると、中型魚たちに捕食される小魚の量が増えてしまいます。
このようにして、上から下に向かってどんどんバランスが崩れていくことをトップダウン効果といいます。
その反対がボトムアップ効果です。
植物プランクトンの数が減ることで、下から上に向かってバランスが崩れていくことを言います。
サメが減少すると生態系はどうなる?
では次に、サメが減少すると生態系はどうなるかについて解説します。
サメと珊瑚の意外な関係
オーストラリア海洋科学研究所によると、豪州北西部の海域ではサメの個体数が減少し、フエダイなどの中位の捕食魚の数が増加し、ブダイなどの草食魚の数が減少してしまったそうです。
このブダイは藻を食べる魚です。
サンゴが死ぬとその表面を覆うように藻が生え、サンゴの再生能力を阻害します。
それを草食魚が藻をかじり取って小さな隙間を作ることで、サンゴの再生が行われるようになるのです。
ところが、藻を食べるブダイがいなくなると、若いサンゴが藻に覆われてしまいとサンゴ礁が回復できなくなってしまいます(Ref.1)。
サメの減少は、貝類にも影響?
サメが減少することで、エイが増加する可能性があります。
エイを捕食するのはサメだからです(Ref.2 pp196-199)。
そうなると、エイ類が捕食することによって今度は貝が減ってし舞うということが起きてしまいます。
たとえば、ノースカロライナ州沿岸では、2000年代前半にサメが減少し、それまでは捕食されていたエイや小型のサメなどが爆発的に増加。
このときに増えたマダラエイはホタテ、カキ、アサリなどを大量に食べてしまいました。
そのため、エイや小型のサメなどの増加は生態系に影響を及ぼしただけではなく、その地域で漁業を営む人々とも競合することとなりました(Ref.3)。
おわりに
このようにサメの生態系での役割は非常に重要なものです。
それにもかかわらず、過去50年間に18種のサメとエイの個体数が70%も減少し、IUCNレッドリストでは、世界のサメ類554種のうち30%弱にあたる167種が絶滅危惧種と評価されています。
かつては外洋で多く見ることのできたヨゴレは過去60年間で98%減少したと推定されています。
ただ怖いだけの生き物という一面的な見方ではなく、同じ地球に住む仲間のこととして、サメのことを考えてみませんか?
まずは一歩、今まで自分が目を向けていなかったことに目を向けて、考えてみること。
そこからはじめてみましょう。
参考文献一覧
(2)田中彰『深海ザメを追え』宝島社、2014年(第1刷)。
(3)Marine Conservation Institute “Sharks Are in Trouble … Without Them, Whole Ecosystems May Disappear” April 1, 2021,2022年4月4日に閲覧。