恐竜よりも長い年月を生き抜いてきたサメたち。
その中でも、最強のハンターとして名高いホホジロザメが、今、絶滅の危機に瀕しています。
いったいなぜ、ホホジロザメの個体数は減ってしまったのでしょうか?
今回のブログでは、なぜ、ホホジロザメが絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)のサメになってしまったのかという理由について解説します。
ホホジロザメが絶滅危惧種になった理由
ホホジロザメが絶滅危惧種になった理由は次の3つです。
- 沿岸漁業での混獲<
- 映画『ジョーズ』の影響による乱獲
- 成長速度が遅い
沿岸漁業での混獲
ホホジロザメが絶滅の危機に瀕している原因のひとつが混獲です。
沿岸漁業で混獲されることが多く、沖合の遠洋漁業で捕獲されることはまれです(Bruce 2008, Lowe et al. 2012, Dewar et al. 2013, Lyons et al. 2013, Francis 2017, Onate-Gonzalez et al. 2017)。幸いなことに、定置網での混獲の場合、ホホジロザメを海に戻しても生存できる可能性は比較的高いことがわかっています(Lyons et al. 2013, Benson et al. 2018)。
混獲は、ホホジロザメの個体数減少に大きく影響を与える問題です。漁業のあり方を見直し、混獲を減らすための対策が急務です。
映画ジョーズの影響による乱獲
1975年に公開された映画ジョーズは、ホホジロザメに対する人々の恐怖心をあおり、結果として乱獲を招くという不幸な事態を引き起こしました。
当時、海に関する環境問題や保全意識は今ほど高まっておらず、娯楽のために多くのホホジロザメが乱獲されることになったのです。
2022年12月18日、スティーブン・スピルバーグ監督自身が、BBCラジオのインタビューでこの事実を認め、「本当に申し訳ないと思っている。ジョーズの影響でホホジロザメの乱獲が進み、サメの個体数が減ってしまった」と、深い後悔の念を表明しました。スピルバーグ氏の言葉は、映画が自然界に与えた大きな影響を改めてわたしたちに突きつけ、自然環境に対する人間の責任を問いかけています。
成熟するまでに時間がかかる
ホホジロザメだけではなく、世界中の多くのサメ種の個体数が急速に減少しています。
その主な原因のひとつが、成長速度が遅いことです。
ホホジロザメは人間並の寿命でゆっくりと成長するため、成熟するまでに何年もかかります。また、ホホジロザメは妊娠期間も長く、出産数も少ないため繁殖率がとても低いのです。そのため、乱獲に対してとても脆弱です。
中にはヨシキリザメやイタチザメのように一度の出産で60匹以上産む多産のサメもいますが、それでも硬骨魚類と比較すると随分と少ない数です。ホホジロザメをはじめとした多くのサメたちは出産数が少ないために絶滅の危機にさらされていいます。
恐ろしさばかりが一人歩きしていますが、サメたちの置かれている現実はもっと知られるべきです。
ホホジロザメの個体数は?
※画像:「【海の食物連鎖】サメの生態系での役割とは?」
海洋生物の個体数に関しては調査方法などにより諸説ありますが、生きものの個体数は体の大きさによりピラミッド状になっています。
つまり、頂点捕食者であるホホジロザメの個体数はそもそも少ないということを心に留めながら読んでいただけたらと思います。
ホホジロザメの個体数
ホホジロザメの個体数は、いくつかの地域で推定されています。
2010年に行われた調査では3500匹程度ではないかと推定されていましたが、現在はそれよりも多いとみられています。
地域別の個体数推定
- 東オーストラレーシア (2017年): 5,460匹 (誤差の範囲:2,909~12,802匹)
- 北東太平洋 (2012年): 2,000匹以上
- 南アフリカ
- クワズール・ナタール州 (1996年): 1,279匹(Cliff et al. 1996年)
- ガンズバーイ (2007-2011年): 908匹(Towner et al. 2013)
- ファルス湾 (2004-2012年): 723匹 (Hewitt 2014)
- モッセルベイ (2008-2010年): 389匹(Ryklief 2012)
これはあくまで一部の地域ごとの推定値であり、世界全体の個体数を代表するものではありません。より正確な個体数把握のためには、国際的な協力のもと、長期的なモニタリング調査が必要不可欠です。
個体数の動向
- 北大西洋: 1961-2010年で年間1.0%減少、3世代で80.8%減少
- 北太平洋: 1980-2010年で年間4.1%増加、3世代で602.1%増加
- 南太平洋 (オーストラリア東海岸): 1950-2009年で年間1.8%減少、3世代で95.8%減少
- 西インド洋 (南アフリカ): 1978-2012年で年間0.1%増加、3世代で13.1%増加
地中海: 1947-2016年の69年間で少なくとも80%減少
多くの地域で1990年代以降、ホホジロザメの保護活動が実施されたことにより、個体数が増加または安定化傾向にあります。しかしながら、世界的には過去3世代(159年間)で30~49%の個体数減少が推定されているため、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)」と評価しています。
参考:IUCN. Carcharodon carcharias (White Shark)
ホホジロザメは絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストは、ホホジロザメを「絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)」と評価しています。
IUCNの絶滅危惧種のカテゴリーは3つ
より詳しく説明すると、IUCNの絶滅危惧種のカテゴリーは、絶滅の危険性が高い順に以下の3つに分けられます。
- 絶滅危惧種:深刻な危機(CR / Critically Endangered): 野生で絶滅する危険性が極めて高いと考えられる
- 絶滅危惧種:危機(EN / Endangered): 野生での絶滅の危険性が非常に高いと考えられる
- 絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable): 野生で絶滅する危険性が高いと考えられる
ホホジロザメは、このうち上から3番目の「絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)」に分類されています。
IUCNの一覧表
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
サメの保全活動に関する国際的な取り組み
国際条約で合意されたサメの保全活動は、各国の実施状況に大きく依存しています。しかし、現状では国内レベルでの具体的な取り組みが不十分です。
世界中の多くの漁業国や欧州連合(EU)は、ホホジロザメ保護のための国内規制を設けています。
ボン条約(移動性野生動物種の保全に関する条約、CMS)
2002年、ホホジロザメは移動性野生動物種の保全に関する条約(CMS)の付属書IおよびIIに掲載され、それぞれ締約国に厳格な保護と、特にCMSの回遊性サメに関する覚書を通じての地域的な保護活動への取り組みを義務づけました。
2007年以来、CMSへの掲載に対応し、欧州共同体の漁船は、すべての共同体および非共同体水域で、ウバザメとホホジロザメの漁獲、船上での保持、積み替え、水揚げを禁じられています(Lack 2009)。
ジンベイザメやホホジロザメ、ウバザメなど個体数が減少している7種類のサメを保護するため、移動性野生動物の種の保全に関するボン条約に基づいて、新たな協定が締結された。
フィリピンのマニラで開催された会合で、各国政府の代表は、移動性のサメの保護に関する覚書の本文に合意。7種類のサメは、ボン条約の附属書I(絶滅の恐れのある移動性の種)、附属書II(補足協定の対象となる種)に追加されることが同意された。
過剰捕獲、漁業での混獲、違法取引、生息地の破壊、餌となる種の減少、水銀などによる汚染、地球温暖化の影響といった海洋環境の変化が、サメを脅かしている。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、14種類のサメが絶滅の危機に瀕しているとされた。
商業的な漁業の対象となる生物種が、ボン条約の仕組みで保護されるのは初めてのこと。
ボン条約に基づく協定では、移動性のサメの個体数の回復と長期的な存続を目指す。最初のステップとして、保全・管理のための計画が検討されている。引用:EICネット 一般財団法人環境イノベーション情報機構「ボン条約 ジンベイザメやホホジロザメなどの保護で国際協力を強化」
2022年、締約当事者はヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカ・アジア太平洋地域から48ヵ国とEU(ヨーロッパ連合)および14連携団体、軟骨魚綱に属す回遊性の37種が対象となりました。
ワシントン条約(CITES)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2004年)
ホホジロザメは2004年にワシントン条約(CITES)の附属書Ⅱに掲載されました。
日本はホホジロザメについて留保しています。
ワシントン条約(CITES / サイテス)のリストに掲載されたサメ類と日本の対応について
地中海漁業一般委員会(General Fisheries Commission for the Mediterranean:GFCM)
2012年のGFCMによる地中海のホホジロザメを含むサメ・エイ24種(地中海保護を目的とした国際環境条約であるバルセロナ条約の付属書IIに記載)の漁獲・保持を禁止しました。混獲された場合はリリースを義務付けています。
このGFCMにはホホジロザメだけではなく、商業的価値の高いアオザメ、絶滅危惧種のカスザメ、絶滅危惧種のエイのサカタザメなども含まれており、これらの種の保全にも貢献することが期待されていました。しかし、(Shark Trust)の報告によると、GFCM加盟国によりこの措置が適切に実施されたという証拠がほとんどなく、課題となっています。
ホホジロザメを絶滅の危機から救うための対策は?
ホホジロザメを絶滅の危機から救うための対策にはいろいろあります。
まず国単位でのサメを絶滅の危機から救うための対策はサメの漁獲の規制、海洋保護区の設置、トレーサビリティーの確立などがあります。これらのことに市民レベルで関わることは難しいのですが、もっと簡単なサメの保全のためにできる対策もあります。
国レベルの対策
南アフリカでは1991年にホホジロザメを保護するための法律が制定されました。ホホジロザメは南アフリカだけではなく、ナミビア、イスラエル、マルタ、モルディブ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各地で保護されています。サメの保護論の歴史については『サメ保護論はいつから?歴史や背景をわかりやすく解説』をお読みください。
市民レベルの対策
ホホジロザメが絶滅危惧種になってしまった理由は乱獲やフカヒレだけではなく、海の環境の悪化も原因のひとつです。つまり、環境に配慮したライフスタイルを送るということはめぐりめぐってサメの保全の対策になるのです。大量消費をしない、不要なものを買わない、ムダな電力は使わないなど今からできる対策もたくさんあるはず!
サメたちを守るためにも地球に優しい生活をはじめてみませんか。
まとめ
わたしたち人間はまるで「神」のように地球上の生き物の価値を評価し、利用してきました。その結果、サメをはじめとした多くの生き物が絶滅の危機に瀕しています。
ここで「神」の視点は卒業して、地球上に生きる仲間として、サメをはじめとした多くの生き物に対する向き合い方を変える時期が来ているのではないでしょうか。
絶滅危惧種のサメについてアンテナを張り、情報収集することもお手軽に始めることのできるサメを絶滅の危機から救うためにできる対策のひとつです!知るということは行動を変えることにつながっていくので、何ができるか対策がわからないときは知ることから始めてみるのがおすすめですよ。
参考文献・サイト
谷内透『サメの自然史』東京大学出版会、1997年。
国際自然保護連合IUCN
Scientists Publish First Study of White Shark Population Trends off of California
The dwindling number great white sharks
Great White Sharks — SDM DivingCan white shark numbers be estimated?