
今回は、サメの保全と環境問題、SDGsとのつながりについて解説します。
サメを守るというと、海の生き物だけの問題に見えるかもしれません。しかし、サメを捕る漁業、フカヒレやサメ肉を買う市場、沿岸地域で暮らす人々の仕事、観光、気候変動まで、さまざまな問題が関係しています。
サメと人間の関係
世界的大ヒット映画『ジョーズ』のイメージで、サメを恐ろしい人食いザメと思っている方も多いのではないでしょうか。
実際に、わたしがサメ好きというと、
「ジョーズのイメージしかない」
「人食いザメのどこがいいの?」
といわれてしまうこともしばしば。
人食いザメと恐れられるサメですが、人間へ深刻な被害を与える可能性があるのは、ホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメなど、ごく一部の種です。
フロリダ自然史博物館のInternational Shark Attack Fileは、この3種を、重傷事故に関係することが多い「Big Three」としています。ただし、サメが人間を日常的な獲物として狙っているわけではありません。
同博物館が2026年に公表した集計では、非誘発性のサメ事故による世界の死亡者数は、直近10年間の平均で年間6人でした(Florida Museum of Natural History 2026)。
サメとの事故が起こることはあります。しかし、人間がサメから受ける被害と、人間がサメへ与えている被害の規模は、比べものになりません。
サメが絶滅危惧種になっている理由とは?
怖い生き物だと思われがちなサメですが、IUCNレッドリストでは、世界のサメ類562種のうち、およそ30%にあたる168種が絶滅危惧種と評価されています。
サメが絶滅の危機に追い込まれている最大の原因は、漁業による過剰な捕獲です。狙って捕る漁だけでなく、マグロなどを捕る漁具へ偶然かかる混獲でも、多くのサメが死亡しています。
2024年に『Science』で発表された研究では、世界の漁業によって死亡したサメは、2012年の少なくとも7600万匹から、2019年には少なくとも8000万匹へ増えたと推定されました。そのうち約2500万匹は、絶滅危惧種に分類されるサメでした(Worm et al. 2024)。
この研究が数えているのはサメです。エイ・ギンザメ類を合わせた数字ではありません。
また、多くの国や地域がシャークフィニングを禁止したにもかかわらず、サメの死亡数は減りませんでした。ヒレだけを切り取って魚体を海へ捨てる行為を禁止しても、サメを水揚げして肉やほかの部位を利用すれば、サメの死亡そのものは止まらないからです。
生息地の喪失、海洋汚染、気候変動、海洋酸性化も、一部のサメや生息地域へ影響を与えています。
これらは、わたしたち人間が引き起こしていることばかりです。
サメと環境問題(SDGs14)
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17の目標と169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを掲げています。
海とSDGsといえば、目標14「海の豊かさを守ろう」が頭に浮かぶ人も多いでしょう。
国連が定めた目標14には、海洋汚染の削減、海洋生態系の保護、海洋酸性化への対処、乱獲や違法・無報告・無規制漁業の防止、海洋保護区、小規模漁業者の保護などが含まれています(United Nations n.d.)。
サメの保全と特に深く関係するのは、次のターゲットです。
- 目標14.2:海洋・沿岸生態系を保護し、回復させる
- 目標14.3:海洋酸性化の影響を最小限に抑える
- 目標14.4:乱獲、違法・無報告・無規制漁業を終わらせる
- 目標14.5:沿岸・海洋域を保全する
- 目標14.7:持続可能な漁業や観光から沿岸地域が経済的利益を得る
サメの保全はSDGs14だけの問題ではない
SDGsの17の目標は、一つずつ別々に達成するものではありません。
牧野(2020)によると、目標14「海の豊かさを守ろう」の達成は、貧困の撲滅(目標1)、飢餓の撲滅(目標2)、経済成長(目標8)、沿岸のまちづくり(目標11)にも貢献します。反対に、責任ある消費(目標12)や気候変動への対策(目標13)は、目標14の達成を支えます(牧野 2020, p.135)。
つまり、SDGsとは個別に達成する目標が並んでいるわけではなく、それぞれの目標が相互に影響し合っているということです。
サメの保全も、海の中だけで終わる問題ではありません。サメを捕る漁業、消費地での需要、沿岸地域で暮らす人々の仕事、観光収入の分配、漁業管理、気候変動、海洋汚染、国際協力まで関係しています。
「サメを捕らなければよい」というだけでは、漁業によって生活している人々の収入や食料が失われます。
でも、生活のためにサメを獲りすぎると海の生態系に影響が出てしまいます。
では、サメと人間の両方を守るには、何を変えればよいのでしょうか。
サメとSDGsの目標1「貧困をなくそう」
違法なフカヒレ漁が行われる背景には、貧困や、ほかの仕事を選べない状況があります。
これは、沿岸地域の人々がサメの保全を知らないから、違法な漁をしているという話ではありません。
高価なヒレを買う市場は遠く離れた都市や外国にあります。しかし、実際に危険な海へ出てサメを捕るのは、沿岸地域で暮らす漁業者です。
インドネシア東部のサメ漁を調べた研究では、漁村に貧困が広がり、市場、教育、医療へ十分にアクセスできない状況が報告されています。
サメのヒレは高値で売れるうえ、冷蔵設備がなくても乾燥させて保存できます。交通や電気などの設備が限られた離島でも、仲買人が来るまで保管できる商品だったのです(Jaiteh et al. 2017a)。
同じ地域を調べた別の研究では、漁場の喪失、ほかの収入源の少なさ、フカヒレ取引の仲買人との借金関係によって、一部の漁業者が違法な越境漁など、危険な仕事へ追い込まれていました(Jaiteh et al. 2017b)。
ガーナ西部の漁村でも、サメ漁は単なる副収入ではありませんでした。調査対象となった漁業者や取引者のなかには、収入の80~100%をサメ漁へ依存する人が多く、サメ肉は地域の安価なタンパク源にもなっていました(Seidu et al. 2022)。
サメを捕る人を悪者にして終われば、サメを高値で買う市場や、仕事を選べない貧困は見えなくなります。
この問題では、捕られるサメだけでなく、生活のために危険で不安定な漁業へ組み込まれた人々も被害者です。
取締りを強くするだけでは、家族を養うために海へ出る人の生活は変わりません。サメを守るには、地域の人々がサメ漁以外でも収入を得られる仕事を増やさなければなりません。
サメを捕らずに暮らせる仕事をつくる
インドネシアのアロール島では、絶滅危惧種のニタリを対象とした漁業への依存を減らすため、漁業者とともに別の仕事をつくる取り組みが行われました。
2025年に公表された研究では、この取り組みに参加した漁業者によるニタリの漁獲数は、参加しなかった漁業者より91%少なくなりました。参加者の収入も増え、一部では取り組み前の収入と比べて最大525%増加しました(Shidqi et al. 2025)。
すべての地域で同じ方法が成功するとは限りません。それでもこの事例は、サメを捕る人を罰するだけでなく、サメを捕らなくても暮らせる収入をつくることで、サメの死亡と貧困を同時に減らせることを示しています。
サメとSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」・目標11「住み続けられるまちづくりを」
ケージダイビング、サメダイビング、ジンベエザメの観察ツアーなど、生きたサメを対象とした観光は、沿岸地域の仕事になることがあります。
2013年に公表された世界規模の研究では、年間約59万人がサメを観察する観光へ参加し、年間3億1400万ドルを超える支出と、約1万人の直接雇用を生み出していると推定されました(Cisneros-Montemayor et al. 2013)。
サメを捕って販売すれば、そのサメから収入を得られるのは一度だけです。生きたサメが同じ海へ戻ってくれば、何度もダイバーや観光客を呼ぶことができます。
ただし、サメ観光を始めれば、自動的に地域の貧困がなくなるわけではありません。
観光会社だけが利益を得て、漁業者や地域住民へ収入が戻らなければ、サメ漁に代わる仕事にはなりません。観光客がサメへ過度に接近したり、管理されていない餌付けを行ったりすれば、サメのための観光がサメへ負担を与えることもあります。
誰が観光事業を運営し、誰を雇い、利益をどこへ戻すのかまで決めて、初めて地域の仕事とサメ保全を結びつけられます。
サメとSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」
SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」は、目標14「海の豊かさを守ろう」と直接つながっています。
人間が排出した二酸化炭素の一部を海が吸収すると、海水の化学的な性質が変わり、海洋酸性化が進みます。
海洋酸性化は、サンゴや貝類など、炭酸カルシウムを使って殻や骨格をつくる生物へ大きな影響を与えます。
サメは貝のような殻をつくる生物ではありません。しかし、海洋酸性化とサメに関する研究では、高い二酸化炭素濃度にさらされた一部のサメで、餌を探す行動や活動量が変化したと報告されています。
一方で、影響がほとんど確認されなかった種もいました。サメへの影響は、種、成長段階、水温、実験期間などによって異なります(Rosa et al. 2017)。
そのため、「海洋酸性化でサメの骨格や殻がつくれなくなる」と一括りにはできません。
分かっているのは、気候変動と海洋酸性化が、サメの生息地、餌となる生物、行動、生理機能へ複数の影響を与えうるということです。
サメの保全のために私たちができること
個人の行動だけで、世界の漁業管理や沿岸地域の貧困を解決することはできません。
それでも、私たちが何を買い、どんな観光を選び、どんな情報を広めるのかは、市場や企業、政策へ影響します。
- 購入する魚介類の種名、産地、漁法を確認する
- 由来が分からないフカヒレやサメ製品を安易に購入しない
- 地域住民を雇用し、利益を地域へ戻しているサメ観光を選ぶ
- サメを「人食い」「危険」とだけ扱う情報を、そのまま拡散しない
- サメの調査や保全活動を行う団体を知り、寄付や情報発信で支える
- 海へ流れ込むプラスチックごみや生活排水を減らす
- 気候変動対策に取り組む企業や政策を選ぶ
すべてを一度に行う必要はありません。
確かに、一人の行動だけでは世界を変えることは難しいかもしれません。しかし、その行動が世界中の人々へ広がっていくとしたら、どうでしょうか。
蝶の羽ばたきのようなわずかな変化であっても、その変化があった場合となかった場合では、後の状態が大きく異なることがあります。これは、バタフライエフェクト(バタフライ効果)と呼ばれています。
一人ひとりの取り組みは、世界全体から見ればとても小さなものです。それでも、何を買うのか、どんな観光を選ぶのか、どんな情報を広めるのかという選択が積み重なれば、企業や市場、政策の動きも変わっていきます。
難しいことを、すべて一度に始めなくてもいいのです。
魚介類を購入するときに、種名や産地を見てみる。サメを利用した製品が、何から作られているのか確かめる。サメを「人食い」「危険」とだけ扱う情報を、そのまま拡散しない。
小さなこと、簡単なことから始めてみませんか。
ただし、サメの保全を個人の努力だけへ任せることはできません。誰がサメを捕り、誰が大きな利益を得て、誰が危険や貧困を引き受けているのでしょうか。
サメを守るには、サメを捕らなくても人が暮らせる方法をつくらなければなりません。
捕られるサメも、生活の選択肢を奪われた人も被害者です。
サメと人間のどちらかを切り捨てるのではなく、両方が生きられる方法を選ぶこと。
一人ひとりの小さな行動と、漁業、市場、企業、政府による大きな変化。その両方が重なることで、SDGsへの貢献だけではなく、サメの保全にもつながっていくのではないでしょうか。
参考文献一覧
- Florida Museum of Natural History (2026) Yearly Worldwide Shark Attack Summary. International Shark Attack File (accessed 2026-07-13).
- IUCN (n.d.) The IUCN Red List of Threatened Species. IUCN Red List (accessed 2026-07-13).
- Worm, B. et al. (2024) Global shark fishing mortality still rising despite widespread regulatory change. Science, 383, 225–230. https://doi.org/10.1126/science.adf8984
- 牧野光琢(2020)『日本の海洋保全政策:開発・利用との調和をめざして』東京大学出版会,pp.133–137.
- United Nations (n.d.) Goal 14: Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources for sustainable development. United Nations Sustainable Development Goals (accessed 2026-07-13).
- Jaiteh, V.F., Hordyk, A.R., Braccini, M., Warren, C. and Loneragan, N.R. (2017a) Shark finning in eastern Indonesia: assessing the sustainability of a data-poor fishery. ICES Journal of Marine Science, 74(1), 242–253. https://doi.org/10.1093/icesjms/fsw170
- Jaiteh, V.F., Loneragan, N.R. and Warren, C. (2017b) The end of shark finning? Impacts of declining catches and fin demand on coastal community livelihoods. Marine Policy, 82, 224–233. https://doi.org/10.1016/j.marpol.2017.03.027
- Seidu, I. et al. (2022) Fishing for survival: Importance of shark fisheries for the livelihoods of coastal communities in Western Ghana. Fisheries Research, 246, 106157. https://doi.org/10.1016/j.fishres.2021.106157
- Cisneros-Montemayor, A.M., Barnes-Mauthe, M., Al-Abdulrazzak, D., Navarro-Holm, E. and Sumaila, U.R. (2013) Global economic value of shark ecotourism: implications for conservation. Oryx, 47(3), 381–388. https://doi.org/10.1017/S0030605312001718
- Shidqi, R.A. et al. (2025) Designing and evaluating alternative livelihoods for shark conservation: a case study on thresher sharks in Alor Island, Indonesia. Oryx, 59(1), 19–30. https://doi.org/10.1017/S0030605324001376
- Rosa, R., Rummer, J.L. and Munday, P.L. (2017) Biological responses of sharks to ocean acidification. Biology Letters, 13(3), 20160796. https://doi.org/10.1098/rsbl.2016.0796
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