フロリダ州のモート海洋研究所(Mote Marine Laboratory)が行った調査では、特定のサメの行動や位置の変化が、ハリケーンの接近と関連している可能性が示されました(WFLA)。
2001年夏、熱帯低気圧「ガブリエル」の襲来を前に、フロリダ州テラ・シーア湾(Terra Ceia Bay)の浅瀬にあるサメの子どもたちが集まるエリアで、41匹のカマストガリザメの幼魚を追跡。個体に取り付けた送信機と水中受信機を用いて、嵐の前後にどのような行動変化が起きるのかを記録しました。
この研究を主導したのは、当時モート海洋研究所に所属し、現在は海洋調査団体OCEARCHの研究員を務めるボブ・ヒューター博士です。
カマストガリザメは深い海へ移動する傾向がある
「私たちは、カマストガリザメがハリケーンの接近に反応して湾を離れ、嵐をやり過ごしたのちに再び戻ってくるまでの一連の行動を追跡することができました」とヒューター博士は語っています(WFLA)。
博士によると、タンパ湾南部のような浅い環境を利用するサメは、嵐の接近に伴い、より深い海域へ移動する傾向があるといいます。
「テラ・シーア湾(Terra Ceia Bay)下部の水深は最大でも約3〜3.7mほどで、多くはそれよりも浅い場所です。ハリケーンが通過すれば、浅瀬は強い波と流れで一気にかき回され、落ち着いて泳げる環境ではなくなります。そのため、より深い水域へ移動することは合理的な選択と考えられます」。
サメは風や雨といった視覚的変化ではなく、内耳を通じて気圧の低下を感知している可能性があるとされています(WFLA)。このような気圧変化への感受性は、長い進化の過程で獲得された適応のひとつである可能性があります。
サメたちは嵐のあとに戻ってくる
「気圧が下がり始めると、サメたちは移動のタイミングだと判断し、嵐が通過した後に再び戻ってきました」とヒューター博士は説明しています(WFLA)。
追跡されたカマストガリザメの多くは、嵐の通過からおよそ1週間ほどで元の浅瀬へ戻りました。この結果は、こうした浅い湾内が幼魚にとって生活しやすい場所であることを示しています。また、一時的に離れても再び同じ場所へ戻る行動からは、一定の場所利用の安定性がうかがえます。
イタチザメ、コモリザメ、ヒラシュモクザメなどの大型のサメでは異なる反応も確認された
一方、近年発表された研究(Gutowsky et al., 2021)では、イタチザメ、コモリザメ、ヒラシュモクザメ、オオメジロザメといった大型種の行動が、ハリケーンの前後でどのように変化するかが調べられました。
カテゴリー4のハリケーン「マシュー」(2016年)とカテゴリー5の「イルマ」(2017年)の際、バハマのリトル・バハマ・バンクおよびフロリダ州ビスケーン湾に設置された受信機でイタチザメ、コモリザメ、ヒラシュモクザメ、オオメジロザメを含む計32匹が追跡されました。
その結果、小型のサメで報告されているような「一斉に浅瀬を離れる」という明確なパターンは確認されませんでした。種ごとに反応が異なり、嵐の接近に伴い検出数が減少した種もあれば、ほとんど変化が見られなかった種もありました。
「放浪型」のイタチザメが動かなかった理由とは?
イタチザメは、沿岸から外洋まで広い範囲を移動する「放浪型(roamer)」の種として知られています。行動圏が広く、状況に応じて移動できる能力を持つことが特徴です。
そのため、強いハリケーンが接近すれば、より安全な海域へ移動する可能性も十分に考えられます。しかし今回の研究では、少なくとも観測された個体群は、嵐の前後で大きな移動を示しませんでした。
つまり、「移動できる能力がある種が、必ずしも退避するとは限らない」という点が、この研究の興味深いポイントです。
さらに嵐の直後には検出数が増加しており、嵐後の環境変化がイタチザメにとって不利ではなかった可能性も示唆されます。ただし研究者らは、これが嵐そのものの影響なのか、季節的な行動変化によるものなのかは慎重に検討する必要があるとしています(Gutowsky et al., 2021)。
まとめ
ハリケーンという極端な気象現象に対し、サメたちは種ごとに異なる行動を示しました。今回の研究から見えてきたポイントを整理します。
カマストガリザメ(幼魚)
- 行動: 浅瀬の育成場(テラ・シーア湾など)から、嵐の接近に伴いより深い海域へ移動。
- 特徴: 嵐の通過後、およそ1週間ほどで元の浅瀬へ戻る。
- 示唆: 浅瀬は幼魚にとって重要な成育場であり、一時的な退避行動が確認された。
イタチザメ(大型種)
- 行動: 嵐の前後で大きな移動は確認されず、行動圏を維持。
- 特徴: 嵐直後に検出数が増加する現象も観察された。
- 示唆: 移動能力が高い「放浪型」の種であっても、必ずしも退避するとは限らない。
サメが示したのは「一様ではない反応」
今回の研究から見えてきたのは、「サメは嵐の前に一斉に逃げる」という単純な図式ではありません。
幼魚は明確な退避行動を示しましたが、大型種では種ごとに反応が異なっていました。
つまり、嵐という同じ環境変化に対しても、体のサイズや生態的特性によって合理的な行動は変わる可能性があるということです。
サメの行動変化が気象の指標になり得る可能性はありますが、その解釈には種ごとの違いを考慮する必要があります。
気候変動によって極端な気象が増えるなか、こうした種ごとの行動差を理解することは、海洋生態系の将来を考えるうえで重要になるかもしれません。
参考文献一覧
- Gutowsky LFG, et al. (2021) Large sharks exhibit varying behavioral responses to major hurricanes. Estuarine, Coastal and Shelf Science 256:107373. https://doi.org/10.1016/j.ecss.2021.107373.
- WFLA News Channel 8 (2021) Are Tampa Bay shark populations indicators of tropical weather?. https://www.wfla.com/news/local-news/are-tampa-bay-shark-populations-indicators-of-tropical-weather/ (accessed 2021-06-02).
- ウェザーニュース. 台風・ハリケーン強さ比較(日本の台風基準 vs シンプソンスケール). https://weathernews.jp/s/topics/201910/080135/ (2021年6月2日閲覧).


