
搾りたての牛乳に似たにおいがして、牛乳よりも少しドロッとしている。これは、妊娠したホホジロザメの子宮から見つかった液体の話です。
お母さんホホジロザメは、お腹の中の赤ちゃんに何を与えているのでしょうか。答えは「ミルク」です。2016年、沖縄美ら島財団の研究チームが、母ザメは子宮の中で脂質たっぷりのミルクを分泌し、赤ちゃんザメはそれを飲んで育つことを突き止めました。
このブログでは、サメの繁殖様式や子宮ミルク、子育てジョーズなお母さんが出すミルクの写真や、実際に嗅いだ研究者の証言を紹介します。
サメの繁殖様式
サメやエイなどの板鰓類(ばんさいるい)の繁殖様式は他の魚類とは異なり多様な繁殖様式をもっています。
サメの繁殖様式を定義すると、卵生(oviparity)と胎生(viviparity)に大別されます。
サメの繁殖様式 卵生(oviparity)
卵生(oviparity)は書いて字のごとく、赤ちゃんサメが卵から生まれてきます。
これはほとんどの魚類と同じ繁殖方式です。
ネコザメや多くのトラザメ類、一部のテンジクザメ目などが卵生(oviparity)のサメです。
クルクルと巻かれたコイル状のネコザメの卵をサメ図鑑や水族館などで見たことがある人も多いのではないでしょうか。
サメの繁殖様式 胎生(viviparity)
胎生(viviparity)は、お母さんサメのお腹の中で赤ちゃんサメを育てます。
現生のサメの繁殖方法の6割を占めます。
この割合は資料によって幅があり、日本大学生物資源科学部博物館の解説では、サメ類の6〜7割が胎生、残る3〜4割が卵生と説明されています(日本大学生物資源科学部博物館 2020)。
ひとくちに、胎生(viviparity)といっても、卵黄依存型胎生(偶発タイプ・真正タイプ)、母体依存型胎生(胎盤タイプ・卵食タイプ・子宮ミルクタイプ)といった多様性があります。
アオザメ、ネズミザメ、シロワニ、ホホジロザメ、オナガザメ類などのネズミザメ目のサメは、卵食タイプの胎生(viviparity)です。
卵食タイプというのは、お母さんサメのお腹の中で卵巣から子宮に下りてくる小型の卵を食べながら成長します。
シロワニの赤ちゃんは、お母さんサメのお腹の中に一緒にいる仲間を食べてしまうことも!
この「共食い(adelphophagy)」は、ネズミザメ目のすべてに見られるわけではありません。はっきり確認されているのはシロワニとアオザメで、しかも中身が違います。シロワニの胎仔は、成長を終えるためにきょうだいを積極的に襲って食べます。一方アオザメで報告されているのは、発育が遅れた胎仔や死んでしまった胎仔を食べるという、機会があれば食べる程度のものと考えられています(Gilmore 1993;Joung & Hsu 2005;Castro 2013)。ホホジロザメ、ネズミザメ、オナガザメ類では、共食いは報告されていません。
胎生(viviparity)子宮ミルクタイプ
今回ピックアップするのが、胎生(viviparity)子宮ミルクタイプです。
子宮ミルクタイプのサメ・エイ類は、子宮上皮から分泌される子宮ミルク(uterine milk)と呼ばれる高栄養分のミルクでお腹の中の赤ちゃんを成長させます。
典型的な例は、アカエイ、イトマキエイ、トビエイ類など。
ホシザメや他の卵黄依存型胎生のサメ類もこのタイプの可能性があります。
2016年、沖縄美ら島財団(沖縄県本部町)の研究によって、ホホジロザメのお母さんもミルクで子育てする子育てジョーズだということが判明しました(Sato et al. 2016)。
ただし、ホホジロザメは子宮ミルクだけで育つわけではありません。Sato et al.(2016)が示したのは、卵食タイプであるホホジロザメが、卵を食べはじめる前の妊娠初期に、脂質の多い子宮ミルクを飲んで育っているということです。つまり「子宮ミルク → 卵食」という二段構えの育ち方をしています。
ホホジロザメの胎児は母ザメの子宮内でミルクを飲んで成長
2016年12月22日の朝日新聞に、ホホジロザメの胎児は母ザメの子宮内でミルクを飲んで成長するという記事が掲載されました。
映画「ジョーズ」で有名なホホジロザメは、妊娠初期に、母ザメの子宮内で胎児がミルクを飲んで成長することを、日本の研究チームが突き止めた。「魚類最強のハンター」の不思議な繁殖生態の一端が、明らかになった。[・・・・・・] 沖縄美ら島財団総合研究センター(沖縄県本部町)の研究チームは、沖縄県内の定置網で混獲されたメスのホホジロザメを解剖して詳しく調べた。
その結果、妊娠初期に、子宮の内壁の組織から大量のミルクを分泌し、胎児の栄養源にしていることが確認された。脂質を多く含んだコロイド状のミルクは、搾りたての牛乳に似た香りがあり、牛乳よりもややドロッとしているという。
引用:山本智之、『ホホジロザメ、ミルクで育つ 妊娠初期、胎児の栄養源 沖縄の研究チーム発見』、朝日新聞、2016年12月22日
ホホジロザメのミルク
ホホジロザメの大量のミルク状の液体の写真がこちら。
出典:ホホジロザメの不思議な繁殖方法に関する論文が掲載されました | 一般財団法人 沖縄美ら島財団『ホホジロザメの子宮内の液体から発見された胎仔』
沖縄美ら島財団の論文によると、ホホジロザメのミルクは脂質が多く、妊娠初期に子宮上皮から分泌されているそうです。
ホホジロザメの赤ちゃんは、このミルクと卵を栄養にしてお母さんホホジロザメのお腹の中で成長しています。
▼沖縄美ら島財団の論文はこちら(英語)
書誌情報:Sato, K., Nakamura, M., Tomita, T., Toda, M., Miyamoto, K. & Nozu, R. (2016) Biology Open, 5(9), 1211–1215. DOI: 10.1242/bio.017939
ホホジロザメの子宮ミルク発見については、書籍『寝てもサメても 深層サメ学』の中で10ページほど説明されていますので気になる方はどうぞ!
ホホジロザメの子宮ミルクの味
気になるのが、ホホジロザメの子宮ミルクの味。
沖縄美ら島財団総合研究センターで軟骨魚類を研究する佐藤圭一さんは、ナショナルジオグラフィック日本版のインタビューでこう答えています。
「本当にミルクだと思いますよ。だって、においを嗅いでもミルクです。でも、成分はちゃんと分かっていません。きちんとサンプリングしたいんですが、生きてるやつに針刺してとるわけにもいきませんし、生まれてくる時に体にまとっているやつも、混ざりものなしに採取するのは難しいんです。でも、本当にミルクです」
引用:第4回 子どもにミルクやスープを与えるサメがいた! | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
2023年ホホジロザメの赤ちゃんが撮影される
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子宮ミルクをめぐって新しい展開がありました。2023年にカリフォルニア沖でホホジロザメの新生仔が世界で初めて撮影されたとき、体を覆う白い膜は子宮ミルクの名残ではないかと考えられました。ところが2024年、沖縄美ら島財団の研究チームが、この白い膜は子宮ミルクではなく胎仔の皮膚だという説明を発表しています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください!
ホホジロザメの赤ちゃんザメを覆う「白い膜」の正体とは
ホホジロザメの赤ちゃん救出
お母さんホホジロザメのお腹の中でミルクたっぷりで育ったホホジロザメの赤ちゃん。
こういう話を聞くと、ホホジロザメの赤ちゃんの姿が気になりますよね。
生まれたあとのホホジロザメの赤ちゃんの姿を知りたい人は必見の動画です。
岩に打ち上げられたホホジロザメの赤ちゃんをサーファーたちが救出する動画です。
ホホジロザメの赤ちゃんの小ささがかわいい。
サメを捕まえて「海のギャング退治!」みたいな記事などをネットでは見かけるので、こういうサメの救出劇はすごく嬉しいです。
おわりに
サメ映画『ジョーズ』で悪名高くなり、人食いザメ、海のギャングと呼ばれ、海の暴れん坊みたいなイメージで見られがちなホホジロザメですが、「ミルクで子育てしてる」をしているという子育てジョーズの一面を知ると、愛おしく感じませんか。
ホホジロザメの生態にはまだまだ多くの謎があります。
いろいろ知りたいことは尽きませんが、サメの心についてもいつか解明されたらいいなぁと思います。
たとえば、子育て中のホホジロザメに愛情ホルモン「オキシトシン」の分泌があったりしたらおもしろいですよね。
動物には愛情ホルモン「オキシトシン」の分泌がありますし、サメはどうなんでしょうね。
参考文献一覧
- Sato, K., Nakamura, M., Tomita, T., Toda, M., Miyamoto, K. & Nozu, R. (2016) How great white sharks nourish their embryos to a large size: evidence of lipid histotrophy in lamnoid shark reproduction. Biology Open, 5(9), 1211–1215. https://doi.org/10.1242/bio.017939
- 山本智之 (2016) ホホジロザメ、ミルクで育つ 妊娠初期、胎児の栄養源 沖縄の研究チーム発見. 朝日新聞, 2016年12月22日. https://digital.asahi.com/articles/DA3S12717408.html
- ナショナルジオグラフィック日本版 (2016) 研究室に行ってみた。沖縄美ら島財団総合研究センター 軟骨魚類学 佐藤圭一 第4回 子どもにミルクやスープを与えるサメがいた!. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/062800009/070400004/ (accessed 2026-07-19).
- 一般財団法人沖縄美ら島財団 (2016) ホホジロザメの不思議な繁殖方法に関する論文が掲載されました. https://churashima.okinawa/ocrc/marine_organisms/report/1523339305/ (accessed 2026-07-19).
- 佐藤圭一・冨田武照 (2021)『寝てもサメても 深層サメ学』産業編集センター.
- 日本大学生物資源科学部博物館 (2020) ミニ企画展資料「ネコザメの繁殖」. https://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~NUBSmuseum/images/kikakuten/R02-mini/nekozame-03.pdf (accessed 2026-07-19).
- Gilmore, R. G. (1993) Reproductive biology of lamnoid sharks. Environmental Biology of Fishes, 38, 95–114.
- Joung, S. J. & Hsu, H. H. (2005) Reproduction and embryonic development of the shortfin mako, Isurus oxyrinchus Rafinesque, 1810, in the northwestern Pacific. Zoological Studies, 44(4), 487–496.


