オオメジロザメ(ウシザメ)は日本の川にも分布するサメです。
日本の水族館で飼育されたことはあまりないためなかなか出会う機会はありません。
このブログでは、オオメジロザメの特徴などを解説します。
オオメジロザメ(ウシザメ)とは
分類Scientific Classification
オオメジロザメ(学名:Carcharhinus leucas 英語名:Bull Shark)は、メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)に属するサメです。
大柄でどっしりした体つきをしているため「ウシザメ」と呼ばれることもあります。
- 界 Kingdom
- 動物界 Animalia
- 門 Phylum
- 脊索動物門 Chordata
- 綱 Class
- 軟骨魚綱 Chondrichthyes
- 亜綱 Subclass
- 板鰓亜綱(ばんさいあこう) Elasmobranchii
- 亜区 Subcohort
- サメ亜区 Selachii
- 上目 Superorder
- ネズミザメ上目 Galeomorphi
- 目 Order
- メジロザメ目 Carcharhiniformes
- 科 Family
- メジロザメ科 Carcharhinidae
- 属 Genus
- メジロザメ属 Carcharhinus
- 種 Species
- オオメジロザメ Carcharhinus leucas
基本情報
まず、オオメジロザメの基本情報を紹介します。
- 標準和名
- オオメジロザメ(大目白鮫)
- 別名
- ウシザメ
- 地方名
- 沖縄:シロナカー、ナカー
- 英語名
- Bull Shark
- 学名
- Carcharhinus leucas
- 分類
- メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)
- 命名された年
- 1839年(ヨハネス・ペーター・ミュラー&フリードリヒ・グスタフ・ヤーコプ・ヘンレ)
- 保全状況
- 絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2022年)
- 最大全長
- オス:360cm、メス:400cm
- シャークアタックの回数
- 117件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 25件のサメによる死亡事故(1580-2023年)
- 性格
- 攻撃的な傾向があるかもしれない
- 危険度
- 水族館で会える可能性
- ペットとして飼育できる可能性
オオメジロザメ(ウシザメ)と人間との関わり
オオメジロザメはその生息域全域で漁獲圧力にさらされており、刺網、はえ縄、トロール漁(底引き網漁)などで混獲されています。
1990年代、アメリカ南東部のサメ漁でオオメジロザメは大型沿岸サメ漁の1〜6%を占めていました。(Carcharhinus leucas)。
南アフリカ、レユニオン島、オーストラリアでオオメジロザメは大型サメを対象とした保護プログラムの対象にもなっています。
オオメジロザメは沿岸の海域、河口域、河川の生息地を好むことから、水質汚染や土地の開発による生息地の損失や環境の悪化、気候変動にも脅かされています。
オオメジロザメは沿岸域いるサメであり、その子ザメたちは川に生息するすることが多いため、海のみに生息するサメたちよりも人間の生活圏と近い場所に生息しています。
そのため、人間による環境汚染の影響を受けやすいと考えられます。
保全状況
オオメジロザメは絶滅危惧種?
オオメジロザメは絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)と評価されています。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
IUCNレッドリストでは2020年にオオメジロザメを絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)と評価しました。
絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】
ワシントン条約(CITES)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2022年)
2022年11月、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)第19回締約国会議(CITESCoP19)にて、メジロザメ科のサメを附属書Ⅱに一括掲載することが提案され、採択されました。
オオメジロザメは、メジロザメ目メジロザメ科に属するサメなので、今後はワシントン条約によって国際取引を規制されることになります。
日本はこの決定を留保するとみられています。
ワシントン条約(CITES / サイテス)のリストに掲載されたサメ類と日本の対応について
オオメジロザメの形態
オオメジロザメの形態について解説します。
見た目の特徴(形態)
- つぶらな瞳
- 丸い鼻先
- どっしりした体つき
- 第一背びれが大きく広い三角形
オオメジロザメ(Carcharhinus leucas)の顔の特徴は他のメジロザメと比較して小さい目と丸い鼻先です。
第一背びれは大きく広い三角形で、第二背びれは小さいです。
胸ビレも大きく、幅が広く、角張っています。
オオメジロザメは、上が淡い灰色から濃い灰色で、下側が淡いクリーム色です。
若い個体では、ひれの先端は暗く、成長するにつれてより拡散した薄暗い色になります。
オオメジロザメの歯
オオメジロザメの上顎の歯は幅広く、ギザギザがついた三角形の歯です(ギザギザの歯=鋸歯 きょし)。
下顎の歯は上顎の歯と比較すると幅が狭く、細かいギザギザがついた細い三角形の歯です。
大きさ
オオメジロザメも多くのサメと同じくメスの方が大きく成長します。
オオメジロザメの最大全長は?
最大級のオオメジロザメについて考えてみましょう。
オスの最大全長はどれくらい?
沖縄美ら海水族館のオスのオオメジロザメが今年で飼育45年ですが270cmよりも大きくならないようです。
おそらく300cm前後くらいがオスのオオメジロザメの最大全長なのではないでしょうか。
メスのオオメジロザメは最大全長は400cmです。
ホホジロザメのメスの最大全長は6.4m、オスの最大全長が5.17mなのでオスメスの最大全長の差は1m程度なのかもしれませんね。
参照 | オスのオオメジロザメの全長 |
---|---|
Bass et al (1973) | 2.71cm |
沖縄美ら海水族館のオオメジロザメ | 275cm(2019年) |
沖縄美ら海水族館のオオメジロザメ | 270cm(2023年) |
Compagno (1984) | 少なくとも300cm |
オオメジロザメの最大体重はどれくらい?
オオメジロザメの最大体重はどれくらいなのでしょうか。
マラトン沖のメスのオオジロザメは全長325cm、体重454kg
マイアミ大学のニール・ハマーシュラグ博士が2012年にフロリダのマラトン沖で発見した巨大なメスのオオジロザメが全長325cm、体重454kgです。
Tonight on National Geographic #SharkFest at 10 pm EST: “World’s Biggest Bull Shark?”
This is a real science-based show filled with action-packed collaborative, inclusive, and authentic research, with an entertaining television hook for all audiences. pic.twitter.com/ZaqFp0JCAc— Dr. Neil Hammerschlag (@DrNeilHammer) July 13, 2021
この子は通称ビッグブルと呼ばれています。
オオメジロザメと大人の男性3人と並ぶと大きさがよくわかりますね。
南アフリカのブリーデ川のメスのオオジロザメは全長400cm、体重600kg?
南アフリカのブリーデ川で発見されたメスのオオジロザメは全長400cm、体重550〜600kgといわれています。
人と映っている写真を比較すると、フロリダ沖の巨大なオオメジロザメのメスのビッグブルよりも小さく見えます。
ただ、写真は撮る角度などによって実際よりも大きく見えたり小さく見えることもあるので、わたしの個人の考えとしてはどちらが大きいかといわれると難しいと感じました。
フロリダ沖のビッグブルとブリーデ川のメスのオオジロザメ、みなさんはどちらが最大級のオオメジロザメだと思いますか?
サメの最大全長は計測の仕方がさまざまなので諸説ありますが、自分なりに考えてみるのもおもしろいですよね。
オオメジロザメの分布域と生息域
- 分布域
- 熱帯および亜熱帯海域。フロリダ、オーストラリア、アフリカ。河川(ザンベジ川・ミシシッピー川・アマゾン川)、ニカラグア湖
- 生息域
- 表層から水深30mまでの沿岸域。入江、潟、淡水にも生息。
- 日本国内での分布域
- 沖縄(国場川など)
- 水深
- 0〜164m(2021年256mで記録)
分布域
オオメジロザメは沿岸と沖合の熱帯、亜熱帯、温帯海域に生息しています。
日本での分布域
オオメジロザメの日本国内での分布域は沖縄です。
「沖縄美ら海水族館が日本一になった理由」によると、日本で初めて記録されたのは1978年沖縄の定置網にかかった全長260cmのオオメジロザメです。
このオオメジロザメは2023年1月時点も沖縄美ら海水族館で飼育されています(展示はされていません)。
オオメジロザメは沖縄本島の那覇市の久茂地川、国場川、西表島などにも分布しています。
川にオオメジロザメがいると聞くと、人食いザメが川にいるなんて!と思う人もいるかもしれませんが、川で暮らしている子たちの多くは子どもたちです。
生息域
多くのオオメジロザメは水深30m未満の浅い沿岸水域を好みますが、水深1~164mまで生息しているとみられています。
まだ論文化されていないものの、2021年ごろ南アフリカの水深256mでオオメジロザメが記録されたそうです(R. Daly pers. comm 2021年2月5日、参照:IUCN)。
オオメジロザメは河口、湾、港、ラグーン、河口などだけではなく、淡水域に移動できる数少ない種のひとつで、淡水域で長期間過ごすことができます。
ときには街中の川や民家の裏庭、ゴルフコースに現れることも!
また、オオメジロザメは何千kmも川を泳いだり、カバの赤ちゃんを狩ることもあります。
オオメジロザメの生態
オオメジロザメ(ウシザメ)の生態について項目ごとに解説します。
寿命
- 平均寿命
- 〜32歳という説が多いが、成熟年齢を考えるともっと長いのではないかと予測される
※サメの年齢を推定するのは難しく、多くのサメが過小評価されている可能性があるので今後さらに長くなる可能性もあります。
- 最大寿命
- 50歳以上(Ref.6)
食性
- 好きな食べ物
- 硬骨魚類、エイ、他のサメ(オオメジロザメも含む)、カメ、カキ、鳥、海に落ちたゴミ
オオメジロザメ(ウシザメ)は、なぜこのような強力なアゴをを持つようになったのか正確な理由は分かっていませんが、食生活に関係があるのかもしれません。
オオメジロザメ(ウシザメ)は攻撃的な性格で硬骨魚類、エイ、他のサメ(オオメジロザメも含む)、カメ、カキ、鳥、海に落ちたゴミなど手当たり次第になんでも餌にしてしまう捕食者です。
イタチザメと似た感じですね。
オオメジロザメは、あらゆるものを食べているため、その頑丈な顎は、さまざまな貝殻、ウロコ、皮を切り裂くのに適しているのかもしれません。
繁殖
- 繁殖方法
- 胎生
- 妊娠期間
- 10〜11か月
- 産仔数
- 1〜13匹
- 幼魚の大きさ
- 56〜81cm
- 繁殖サイクル
- 4月から6月に出産
- 成熟年齢
- 15〜20歳くらい
- 成熟サイズ
- オス:157〜226cm、メス:180〜230cm
オスのオオメジロザメは14~15歳から繁殖行為を行いますが、メスは18歳になるまで繁殖しません。
生殖可能な年齢のメスのオオメジロザメは頭の後ろに傷があります。
これはオスのオオメジロザメが繁殖行為の際にメスに噛みついてしがみつくためです。
噛む力が強い
大人のオオメジロザメは、口の奥で6000ニュートン弱、手前で2000ニュートン以上の力で顎を閉じることができるようです。
人間の噛む力は、男性の平均は261ニュートン、女性は173ニュートンです。
つまり、オオメジロザメは人間と比較すると最大で10倍ほどの噛む力を持っているということになります。
1N=0.1kgで計算すると、オオメジロザメが口の奥で噛む力は6000ニュートン弱なので、600kgほどです。
これは、小型の車一台が落ちてくるくらいの力で噛むことができるということですね。
三菱自動車のミニキャブトラックが690kgなので、ちょうどオオメジロザメが口の奥で噛む力の600kgの相当します。
この車が落ちてくるくらいの力で噛むことができると考えたら、オオメジロザメの噛む力は恐ろしいですね。
噛む力(ニュートン) | 噛む力(kg) | |
---|---|---|
人間の女性 | 173ニュートン | 17.3kg |
人間の男性 | 261ニュートン | 26.1kg |
ホホジロザメ(全長3.3m) | 2,341ニュートン | 234kg |
ホホジロザメ(全長6m以上) | 9,320ニュートン | 932kg |
オオメジロザメ | 6,000ニュートン弱 | 600kg |
1N=0.1kgで計算
引用:“Three-dimensional computer analysis of white shark jaw mechanics: how hard can a great white bite?”
オオメジロザメの天敵
大人のオオメジロザメには、自然の捕食者がほとんどいません。
ただし、若いオオメジロザメは、イタチザメ(Galeocerdo cuvier)、メジロザメ(Carcharhinus plumbeus)、およびその他のオオメジロザメの餌食になる可能性があります。
南アフリカのワニもオオメジロザメを食べたと報告されています。
オーストラリアでは、ブルータスという名の全長5.4mの巨大なイリエワニ(別名:海水ワニ)が小さなオオメジロザメを食べているところが撮影されました。
オオメジロザメはカバを襲う
アフリカの川ではカバとオオメジロザメが衝突することがあるとか。
これはカバが大量のフンを出し、そのフンに小魚が寄ってきて、オオメジロザメが食べるからです。
オオメジロザメは幼いカバを捕食したり、大人のカバに噛みついたりします。
オオメジロザメのカバに対する攻撃は濁った水の中でカバの足を魚と勘違いして攻撃している可能性もあるようです。
オオメジロザメ(ウシザメ)は人食いザメなの?人間への危険性は?
- 危険度
- シャークアタックの回数
- 117件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 25件のサメによる死亡事故(1580-2023年)
オオメジロザメは熱帯地方の沿岸の浅瀬に生息し、非常に水深が浅い場所や汽水・淡水にもよく出没し、泳いだり狩りをしたりできるため、イタチザメやホホジロザメと比較すると、生活圏が人間に非常に近い傾向があります。
そのため、オオメジロザメは人間と遭遇する可能性が高くなるので、噛まれたり攻撃されたりするサメ事故が発生してしまう可能性があるのです。
また、視界の悪い場所では、人間を他の肉食動物と勘違いしてしまうことがあるとか。
このようにオオメジロザメは人間に致命的な怪我を負わせますが、必ずしも人間を好んで食べる人食いザメということではないと思います。
他のサメにもいえることですが、目の前にあったらとりあえず餌かどうか、食べられるものかどうか噛んでみる、ということなのではないでしょうか。
ただ、そのひと噛みを大型のオオメジロザメなどにされては人間はたまったものじゃないですけど(/´△`\)
サメが人間を襲うことは雷に打たれるよりも稀なことではありますが、ときどき起きることなので海中で大型のサメに遭遇したときは注意しましょう。
続きを見るサメ事故は年間何件?日本に生息する人食いザメの種類・分布・危険性
世界や日本でのシャークアタックについての内容が30ページ弱あります。
1992年3月8日に起きた瀬戸内海サメ騒動(瀬戸内海サメ襲撃事件)については、当時の新聞記事、調査結果、証拠、状況などが詳細に記されています。
サメの危険な一面だけではなく、生態などについても詳しく学べるので初心者におすすめの一冊!
オオメジロザメのテストステロン値は動物界で最も高い?
サメのドキュメント番組で出てくる「オオメジロザメのテストステロン値は動物界で最も高い」という解説はフロリダのマラトン沖で巨大なオオメジロザメを発見したマイアミ大学のニール・ハマーシュラグ博士の発言が元になっているようです。
オオメジロザメのテストステロン値についての比較です。
環境 | 性別 | テストステロン | |
---|---|---|---|
アフリカゾウ | 不明 | オス | 64.4 gn/ml |
オオメジロザメ | 不明 | オス | 358ng/ml(根拠が乏しい) |
オオメジロザメ | 不明 | メス | 0.1ng/ml(根拠が乏しい) |
オオメジロザメ | 野生(繁殖期の直前に捕獲) | 不明 | 平均185ng/ml |
オオメジロザメ | 飼育下 | 不明 | 10ng/mlから20ng/ml(3年間、毎年6月に測定) |
358ng/mlという数値は根拠が乏しいとのこと。
この中で信頼できそうな数値は3年間、毎年6月に測定してきた飼育下のオオメジロザメの10ng/mlから20ng/mlです。
飼育下だから低くなるという見方もできるかもしれませんが、同居魚たちを次々と襲撃した美ら海水族館のオオメジロザメのエピソードを考えると、テストステロンとオオメジロザメの攻撃的な性格を結びつけることはできないのかもしれません。
なお、ウチワシュモクザメの最高値は303ng/ml、ニジマスもテストステロン値が極端に高いそうなので、オオメジロザメが突出しているということはないようです。
結局のところ、オオメジロザメのテストステロン値は動物界で最も高いかどうかは明確な根拠が少ないというのが現状ですが、個人的にはとても興味のある話なので、どこかのサメ研究者の方が論文化してくれたらいいのになと思います。
サメは種類によって、攻撃的な性格、おとなしい性格などといわれることがあります。
また、同じ種のサメによっても性格が異なるという見方もありますよね。
その性格を分ける要素が人間のようにテストステロンだとしたらおもしろいですね。
ジョーズの真犯人はオオメジロザメ?
オオメジロザメには他のメジロザメと同様にぱっと見でわかるような顔の特徴がないため、突然の遭遇で見分けるのは困難です。
そのため専門家の中には、ホホジロザメやガンジスメジロザメ(Glyphis gangeticus)などのせいにされていた襲撃事件が、実はオオメジロザメ仕業ではないかと考える人もいます。
1998年製作の映画『ジョーズ '98 激流篇(製作国:アメリカ)』は、ホホジロザメではなく川で生息できるオオメジロザメ(ウシザメ)が犯人でした。
久しぶりに見て細部を確認したいのですが、U-NEXTなどにはない様子。
残念。
なお『ジョーズ '98 激流篇(製作国:アメリカ)』も、1916年に起きたニュージャージーサメ襲撃事件 (Jersey Shore shark attacks of 1916) という有名な実話が元になっています。
ニュージャージーサメ襲撃事件 (Jersey Shore shark attacks of 1916)について詳しく知りたい方は『ジョーズの元ネタになった?ニュージャージーサメ襲撃事件とは』をどうぞ!
続きを見るジョーズの元ネタになった?ニュージャージーサメ襲撃事件とは
オオメジロザメと淡水
オオメジロザメは淡水にも対応しているサメです。
ここではオオメジロザメが淡水で生きていける理由や、淡水のオオメジロザメについてのトピックを紹介します。
淡水で生活できる理由
サメの中でも、ほぼ唯一淡水で生活できるのが、オオメジロザメ(ウシザメ)の特徴です。
すべての生物は、体内で特定の塩分と水分の比率を必要とします。
塩分を吸収しすぎると細胞が脱水症状を起こし、逆に真水を吸収しすぎると細胞が膨張してしまいます。
魚はこの問題に対処するために、いくつかの方法を進化させてきました。
そのひとつが「排尿」です。
海水魚の場合、余分な塩分は腎臓で血流から取り除かれ、排尿の際に洗い流されます。
淡水魚の場合はその逆で、おしっこにはほとんど塩分が含まれておらず、体内の塩分濃度が高いのです。
ほとんどの魚は、腎臓で除去される塩分量をコントロールすることができません。
これが、多くの種が淡水か海水のどちらかでしか生きられない理由のひとつです。
東京大学大気海洋研究所と理化学研究所、沖縄美ら海水族館の研究グループの発表によると、オオメジロザメは腎機能が他のサメと異なるとのこと。
淡水環境でのみ遠位尿細管後部と呼ばれる部位に発現するイオン輸送に関わる重要な膜輸送タンパク質(NCC:NaCl共輸送体)をオオメジロザメは持っていますが、他のサメ類(ドチザメ)を低塩分環境においても同じようなメカニズムは起きないそうです(参考:https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2019/20190704.html)。
つまり、オオメジロザメの場合は「尿」に含まれる塩分の量を調節することができるので、どちらの環境でも生きていくことができます。
海で泳いでいるときは、尿の塩分濃度が高いのですが、淡水に入ると腎臓が塩分を保持しようと頑張るため、水っぽい薄めの尿が出ます。
このように、オオメジロザメは肝臓を使って塩分と水分のバランスを保っているのです。
塩分濃度変化の広い範囲に生存できる広塩性の魚類は、オオメジロザメ以外だとマハゼ、ウグイ、スズキ、ウナギ、クロダイなどが挙げられます。
子育て、餌を探すためという説などがあるようですが、それなら他のサメも淡水で生息できるようになってもいいはずですよね。
ニカラグア湖のオオメジロザメ
中米最大の湖であるニカラグア湖で定期的に地元の人々を襲う大きな体のサメは、かつてはオオメジロザメとは別の種であると考えられていました。
つまり、ニカラグア湖に生息するオオメジロザメは湖の固有種だとみられていたのです。
よく知られている仮説によると、ニカラグア湖はもともと太平洋の入り江でしたが、時間の経過とともに閉ざされてしまい湖になったと考えられています。
そのさいに陸封されたサメが独自に進化したのではないかと推測されており、魚類学者の間では「ニカラグア湖のサメ」と呼ばれていました。
ニカラグア湖は海から遮断されているわけではありません。
科学者たちは「ニカラグア湖のサメ」の正体が、カリブ海からサン・ファン・デ・ニカラグア川に侵入し、湖に向かってきたオオメジロザメであることを突き止めたのです。
オーストラリアの民家の裏庭にオオメジロザメ
オオメジロザメに関するこんなニュースもありました。
2020年12月24日、オーストラリアのゴールドコーストでは降り続けた大雨によって決壊したバーリー・ウォーターズに通じる運河からオオメジロザメ(ウシザメ)が入り込み民家の裏庭付近に迷い込んできたことがニュースになりました。
ゴールドコーストに住む人たちの情報交換の場となっているFacebookページ『Gold Coast Community』に12月17日、獰猛で人を襲うことでも知られるオオメジロザメが民家の裏庭に現れたという情報が共有された。
サメの発見者ティモシー・モリソン・デュフールさん(Timothee Morrison Dufour)は「今日のゴールドコーストも荒れた日になりそうだ」「バーリー・ウォーターズの裏庭にオオメジロザメがいるぞ」とコメントを添えて写真を投稿し、同ページにて人々に注意を促した。[・・・・・・]「これは本当にオオメジロザメだと思う。実際に何年か前の洪水の時にも目撃されたから」と過去にも出現したことがあったという意見も同Facebookページ届いた。
オーストラリアのゴルフ場のオオメジロザメ
オーストラリアのブリスベン近郊にある「カーブルック・ゴルフクラブ」には、オオメジロザメが住んでいます。
このゴルフ場は、1990年代に何度も洪水に見舞われたローガン川に隣接しています。
生まれたばかりのオオメジロザメがローガン川から、12番ティーグラウンドから15番ティーグラウンドの横にある汽水域の内陸湖に流され、水が引いたあともそこに閉じ込められたと推測されています。
この湖はアメリカ合衆国ニューヨーク州マンハッタンにあるグランドセントラル駅と同じ広さ(1エーカー=4047㎡でおおよそ64m×64m)です。
また、この湖には魚がたくさんいるので、オオメジロザメは暮らしやすいとか。
最初にオオメジロザメのヒレが目撃されたときは、「アルコールの飲み過ぎ」と判断し見間違いだと思ったそうです。
ところが、2003年にはオオメジロザメの写真が公開され、2011年にはスタッフが撮影したYouTubeの動画が公開されました。
クラブのウェブサイトによると、湖には「6~12匹のサメがいる」とのことで、大きいものでは全長約1.5mもあるそうです。
また、繁殖している可能性も高いとのことです。
「カーブルック・ゴルフクラブ」では、オオメジロザメを歓迎しています。
毎月最終水曜日には「シャークレイク・チャレンジ」というトーナメントが開催され、クラブのロゴにはフカヒレが描かれています。
人食いザメでもあるオオメジロザメがいるためボールの回収は禁止されています。
「カーブルック・ゴルフクラブ」でゴルフを楽しむさいには池ぽちゃに注意しましょう。
淡水の川にも生息しているオオメジロザメ(ウシザメ)
1937年、アメリカ合衆国イリノイ州オールトン付近のミシシッピ川上流、1.6km以上の地点で1.5mので2人の漁師がオオメジロザメを捕獲。
オオメジロザメはアマゾン川やミシシッピ川などの大河川では加工から数百km上流にも遡っているという報告もあるとか(Ref.2)。
また、オオメジロザメはアフリカのザンベジ川や南アジアのガンジス川にも出没するようです。
アフリカのザンベジ川
インドのガンジス川
日本では沖縄の川にいるオオメジロザメ
オオメジロザメ(ウシザメ)は日本でも那覇市の国場川にオオメジロザメが出現したことが話題になりました。
沖縄県で最長の川、西表島の浦内川は昔からオオメジロザメが目撃されていることで有名です。
オオメジロザメ(ウシザメ)を水族館で見たい
ホホジロザメと違い、オオメジロザメは水族館でも飼育することができます。
水族館でのホホジロザメの最大飼育記録は198日ですが、オオメジロザメは40年以上も飼育することができます。
沖縄美ら海水族館では、2018年6月にオオメジロザメ(オス)の飼育40年を迎えました(※2021年9月20日現在は展示が終了)。
このオオメジロザメは同種の世界最長飼育記録を持っています。
美ら海水族館でオオメジロザメの飼育を開始したのは、1978年6月21日(国営沖縄記念公園水族館の時代)です。
メス個体との繁殖にも3回成功、多くの仔ザメが産まれ、さらに孫の世代も誕生しました(Ref.1)。
北米のオクラホマ水族館では、ウォークスルートンネル水槽で10頭のオオメジロザメが飼育されています。
オオメジロザメは長期飼育が可能なサメですが、2023年1月現在、オオメジロザメを飼育している日本の水族館はありません。
水族館の飼育環境には順応するものの、同居魚や同居サメを襲撃するなどの問題があるため、オオメジロザメの飼育に挑戦しようと思う水族館はないのかもしれません。
本土で唯一、オオメジロザメを見ることができた油壺マリンパークは2021年9月30日をもって閉館してしまいます。
油壺マリンパーク閉館後は国内の水族館にお引越しするようなので、オオメジロザメの行方が判明次第追記します。
京急油壺マリンパークで飼育されていたオオメジロザメ(ウシザメ)
※現在は閉館。オオメジロザメの引越し先は2023年1月現在不明です。
京急油壺マリンパークは、本州の水族館では唯一オオメジロザメ(ウシザメ)を展示しています(2021年2月1日現在)。
国内の水族館でのオオメジロザメの飼育・展示は、油壺マリンパークと沖縄美(ちゅ)ら海水族館(沖縄県本部町)のみとなっています。
京急油壺マリンパークにいるオオメジロザメは3尾。
沖縄出身の子たちです。
神奈川新聞によると、オオメジロザメを油壺マリンパークに迎え入れたのは県内と東京都内で実施している「京急×沖縄フェア」の一環とのこと。
2017年に新たに加わったオオメジロザメは沖縄の海で蓄養されていた雌雄1匹ずつ(全長約1.5m)。
京急油壺マリンパークでは、すでに雌のオオメジロザメを1匹飼育していて、繁殖を期待しての婿入りだったそうです(参考:https://www.kanaloco.jp/news/life/entry-8034.html)。
付いてなさそうだから女の子のオオメジロザメ。
オオメジロザメの顔。
かわいい。
サメ図鑑や動画で見るオオメジロザメはずんぐりとした大きな体で顔つきも悪そうなのですが、油壺マリンパークのオオメジロザメは顔立ちも体つきもスマート。
飼育下と野生では顔立ちが変わってしまうのでしょうか。
オオメジロザメはターンの回数が多かったです。
水族館・絶景好き必見!みさきまぐろきっぷのおすすめルートは油壺マリンパーク〜城ヶ島で決まり
水族館・絶景好き必見!みさきまぐろきっぷのおすすめルートは油壺マリンパーク〜城ヶ島で決まり
飼育したことがある水族館一覧
水族館名 | 飼育期間 | 大きさ | 性別 | メモ |
---|---|---|---|---|
沖縄美ら海水族館(沖縄県) | 1978年〜飼育は継続しているが展示はしていない | - | - | おじいさん、叔父さん、孫の三世代を展示していたが、予備槽に移動。2023年1月現在オオメジロザメの展示はなし。 |
京急油壺マリンパーク (神奈川県) | 2008年?〜2021年9月30日 | 不明 | メス | 閉館したため展示終了。オオメジロザメの引越し先は不明。 |
京急油壺マリンパーク (神奈川県) | 2017年2月ごろ〜2021年9月30日 | 不明 | オスとメス | 閉館したため展示終了。オオメジロザメの引越し先は不明。 |
おわりに
油壺マリンパークでウシザメこと、オオメジロザメに会うことができました。
オオメジロザメは、なかなか水族館では出会えないサメなので嬉しいです。
参考文献一覧
(2)佐藤 圭一、冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』産業編集センター、2021年
(3)仲谷一宏『サメ-海の王者たち-改訂版』ブックマン社、2016年(初版第1刷)。 (4)田中彰(監修)『美しき捕食者 サメ図鑑』実業之日本社、2021年(初版第3刷)。
(5)谷内透『サメの自然史』東京大学出版会、1997年(初版)。
(6) David A. Ebert (著), Marc Dando (著), Sarah Fowler (著), Rima Jabado (はしがき, 寄稿) “Sharks of the World” Princeton University Press,2021年
(7)松田裕之『海の保全生態学』東京大学出版会、2012年(初版)。
(8)アントネッラ フェッラーリ、谷内透監修『サメガイドブック―世界のサメ・エイ図鑑』TBSブリタニカ、2001年(初版第2刷)。
(9)スティーブ・パーカー (著)、仲谷一宏 (監修)、 櫻井英里子 (翻訳)『世界サメ図鑑』ネコパブリッシング、2020年(第5刷)。