どっしりとした体型、サメの一般的なイメージ通りの恐ろしい顔つきが特徴のシロワニ。シロワニはネズミザメ目シロワニ科に属している世界中の暖かい海の沿岸に生息する大型のサメです。
※2020年オオワニザメ科からシロワニ属が科として独立。
シロワニは飼育環境への適応力が高いサメなので多くの水族館で会うことができるサメです。
みなさんも一度は会ったことがあるのではないでしょうか。
顔立ちは怖いですが、性質はおとなしく、ゆらゆら、ゆったりと泳ぐ姿はかわいいです。
このブログでは、シロワニの生態やシロワニが絶滅危惧種なのはなぜか?およびその原因などを解説します。
シロワニとは
まず、シロワニの基本情報を紹介します。
基本情報
シロワニ(学名:Carcharias taurus 英語名:Sand tiger shark)は、ネズミザメ目(Lamniformes)シロワニ科(Carchariidae)シロワニ属(Carcharias)に属する唯一のサメです。
2020年に、オオワニザメ科からシロワニ属が科として独立しました。
- 標準和名
- シロワニ(白鰐)
- 英語名
- Sand tiger shark
- 学名
- Carcharias taurus
- 分類
- ネズミザメ目(Lamniformes)シロワニ科(Carchariidae)シロワニ属(Carcharias)
※2020年オオワニザメ科からシロワニ属が科として独立
- 命名された年
- 1810年(Constantine Samuel Rafinesque)
- 保全状況
- 絶滅危惧種:深刻な危機(CR / Critically Endangered)
- ワシントン条約(CITES)
- 掲載なし
- 最大全長
- 325cm
- 生息年代
- 1億4400万年前(Ref.1 p.21)。
- シャークアタックの回数
- 36件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- なし
- 危険度
- 水族館で会える可能性
- ペットとして飼育できる可能性
シロワニの特徴
ここではシロワニの特徴について解説します。
見た目の特徴(形態)
- つぶらな瞳
- どっしりとした丸みのある体
- 1匹ずつ異なる斑点がある
- 細くて長い葉が口元から見える
- ぱっと見のサメ相はよくない、怖い
- 正面顔はかわいい
凶暴な顔立ちのシロワニですが、動きも遅く、おとなしいサメです。
シロワニは東太平洋を除く世界中の海の暖かいまたは温帯の海域で見られます。
見た目は怖いシロワニですが攻撃的でない種のサメで、最初に手を出されたり、いたずらされたときにのみ自己防衛で人間を攻撃することが知られています。
体が大きく、円錐形の鼻、口を閉じても四方八方に突き出た鋭い歯、小さな目がシロワニの特徴です。
シロワニは砂に似た薄茶色の色をしており、この砂のような色味はシロワニが周囲の色に溶け込むのを助けます。
シロワニの名前の由来
シロワニの日本語、英語それぞれの名前の由来を解説します。
日本語のシロワニの由来
京急油壺マリンパークのオオワニザメの剥製標本の前にあった解説文によると、「山陰地方(本州西部の日本海側)では、サメのことを「ワニ」と呼び、オオワニザメは『大きくなるワニ=(サメ)』という意味で、シロワニは『白いサメ』という意味で名付けられたのではないか。」とのことです。
シロワニの英語の名前(Sand tiger shark)の由来
シロワニの英語の名前(Sand tiger shark)の由来は生息地に由来します。
シロワニは海岸に非常に近い浅瀬が好きなので、名前に「砂」が含まれています。
シロワニは歯がすごい
※シロワニの捕食シーンがあります。
シロワニには長く突き出た3列の歯が生えています。
また、シロワニには口を半分開けて泳ぐ習性があるので、水族館でもシロワニの歯は観察することが簡単です。
大きさ
- 平均的な大きさ
- 250〜320cm、平均的な全長は250cm
- 最大全長
- 325cm
- 体重
- 158.8kg
シロワニの生態
ここではシロワニの生態を紹介します。
シロワニは見た目によらずおとなしいサメです。水族館でのろのろと泳ぐ姿を見てびっくりした人も多いのでは。
寿命は40歳くらいとみられていますが、シロワニは水族館で長期飼育されているケースが多いことを考えると15歳という可能性は低そうです。
ライフスタイル
- 泳ぐ速度
- - キロ
- 性格
- おとなしい
- 1日の過ごし方
- ほとんどの時間を底のあたりで過ごす。
- 1年の過ごし方
- 繁殖のために季節回遊し、暖かい海に移動して出産する。
- 好きな食べ物
- 大小の硬骨魚、小さなサメ、エイ、カニ、アカザエビ、イカ
- 海の仲間のお友達
- 他のシロワニと群れをなす。協力して獲物を囲んで狩りをする。
寿命
- 平均寿命
- 15〜40年。この寿命の幅は調査対象のサメ個体群の地理的位置に関連している可能性。(Ref.1)
- 最大寿命
- - 歳
シロワニが好きな食べ物は?
ニシン、青魚、ヒラメ、ウナギ、ボラ、マダイ、クロダイ、カツオ、コバンザメ、ホウボウなどの硬骨魚類、イカなどの頭足類、カニ、ロブスターなどの十脚目、やエイ、小型のサメなどの軟骨魚類も捕食します。
また、シロワニ同士が協力して捕食する行動が観察されています(Carcharias taurus)。
シロワニの繁殖
- 繁殖方法
- 卵食・共食い型
- 妊娠期間
- 9〜12か月
- 産仔数
- 2匹(サメの中で最も繁殖率が低い)
- 幼魚の大きさ
- 95〜105cm
- 繁殖サイクル
- 2年周期
- 成熟年齢
- - 歳
- 成熟サイズ
- 全長225cm
シロワニの妊娠期間は9か月から12か月です。
お母さんザメのお腹の中で成長してから生まれてくるため、生まれたばかりのシロワニの赤ちゃんの全長はおおよそ1メートルにもなります。
この大きさであれば、生まれたばかりの赤ちゃんザメでも、多くの捕食者を簡単に撃退することができます。
共食いすることで体を大きくすることがシロワニの生存戦略なのかもしれません。
しかしながら、そうやって生まれてきた強い子も乱獲やスポーツフィッシングなどの前では無力なのです。
シロワニの赤ちゃんザメは共食いする
シロワニの赤ちゃんザメは共食いするというのは有名な話ですよね。
実はこの話は本当なんです!
シロワニのお母さんザメのお腹の中で数個の卵が孵化してシロワニの赤ちゃんザメは子宮の中を泳ぎ始めます。
このときシロワニの赤ちゃんザメはお腹を空かせています。
一番大きなシロワニの赤ちゃんザメは、生き延びるために孵化していない卵や、すでに孵化してしまった小さくて弱い兄弟サメを食べてしまいます。
シロワニの赤ちゃんザメは兄弟を食べてしまう
シロワニは卵胎生のサメです。
はじめは8匹ほどいるシロワニの赤ちゃんザメは、そのすべてが生まれるわけではありません。
それは、シロワニは母サメのお腹の中で赤ちゃんが共食いをして生まれてくるためです。
シロワニの赤ちゃんは17cmになると歯をもち、26cmになると子宮内で動くことができるようになります。
一番強いシロワニの赤ちゃんザメは子宮内の未受精卵や兄弟を共食いして、それを栄養源に成長します。
シロワニの赤ちゃんザメの動画
シロワニの赤ちゃんザメの動画がこちら。
最終的に母親が出産するときには、シロワニの赤ちゃんザメ左右の子宮に1匹しか生き残らないことがほとんどのため、一度に出産できる数は2匹程度しかいません。
母サメの子宮内でシロワニの赤ちゃん同士が共食いをすることがシロワニの特徴です。
子孫を残せるオスは強いオス
メスのシロワニは繁殖期になると複数の相手と繁殖行動をする傾向があり、最初に出会った相手の卵が最も早く受精するのではないかと推測されています。
そうなると必然的に一番最初に繁殖行動をしたオスの卵が早く孵ることになります。
つまり、他のオスが産んだライバルの胎児をすべて食べてしまう可能性が高くなるというわけです。
子孫を残せるオスは強いオスだということなんですね。
シロワニの分布域と生息域
- 分布域
- 世界中の暖かい海の沿岸に生息。大西洋西部と東部、インド洋西部、太平洋西部、地中海西部。メイン湾からアルゼンチンにいたる西大西洋、カナリア諸島からカメルーンまでの東大西洋、紅海、インド洋、西大西洋の海域。オーストラリア。
- 日本国内での分布域
- 小笠原諸島
- 生息域
- 沿岸水域。通常は浅い湾や砂浜の沿岸水域の温帯および熱帯の海域、岩礁またはサンゴ礁。沈没船(難破船)、断崖、突き出た岩棚にも生息。
- 水深
- 0〜232m(主に水深15〜25m)
分布域
出典:World distribution for the sand tiger shark. Map © Chondrichthyan Tree of Life
シロワニの生息地は、大西洋、太平洋、インド洋、アドリア海(地中海の一部でイタリア半島とバルカン半島に囲まれる海域)です。
西大西洋では、メイン湾からフロリダ、メキシコ湾北部、バハマとバミューダ周辺、ブラジル南部からアルゼンチン北部にかけての沿岸水域に生息。
また、東大西洋では地中海からカナリア諸島、アフリカ北西沖のカーボベルデ諸島、セネガル、ガーナの海岸、ナイジェリア南部からカメルーン。
西インド洋では、南アフリカからモザンビーク南部まで(マダガスカルを除く)
シロワニはは紅海でも目撃されており、東はインドまで生息している可能性があるそうです。
西太平洋では、日本の小笠原諸島やオーストラリアの沿岸などに生息していますが、ニュージーランド周辺にはいないようです。
シロワニの日本周辺の分布域は?
シロワニは日本では小笠原諸島周辺のごく限られた島しょ域でのみ生息しているようです。
小笠原諸島では人間の生活する場所からほど近い港の中にシロワニが集まって来る場所があるとか。
1960年代には東シナ海にも生息していましたが、それ以降は隣接する台湾沿岸での数例を除くと確実な出現事例は報告されておらず、現在ではほとんど生息していないと考えられています。
シロワニはもともと日本周辺では限定的な生息地しかもたなかった上に個体数が激減しているのが現状です。
しかしながら、サメを展示する水族館の多くでシロワニを見ることができる機会は多いので、日本周辺でシロワニを見たいという人には水族館をおすすめします。
生息域
シロワニーは水深1.8~191mの沿岸域に生息しています。
水深15〜25mに生息しているシロワニが多いようです。
浅い湾、サンゴ礁や岩礁、難破船の周り、大陸棚の外側のより深い場所など、さまざまな場所に生息地しています。
シロワニは人食いザメ?人を襲うことはあるの?
恐ろしい顔立ち、約3メートルという大きさ、体重は180kgを超えることのあるシロワニ。
シロワニは顔立ちこそどう猛で怖いサメそのものですが、基本的には臆病で大人しいサメです。
シロワニが人を襲った回数は?
- 危険度
- シャークアタックの回数
- 36件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- なし
フロリダ自然史博物館が管理するグローバルデータベースであるインターナショナルシャークアタックファイル(ISAF)によると、シロワニは1580年以来、人間に対する36回の「挑発されていない攻撃」に関与しています。
これらの攻撃はいずれも致命的ではありませんでした。
シロワニによる死亡事故は記録されていません。
世界や日本でのシャークアタックについての内容が30ページ弱あります。
1992年3月8日に起きた瀬戸内海サメ騒動(瀬戸内海サメ襲撃事件)については、当時の新聞記事、調査結果、証拠、状況などが詳細に記されています。
サメの危険な一面だけではなく、生態などについても詳しく学べるので初心者におすすめの一冊!
シロワニの危険性は?
シロワニは人食いザメではありませんが、あの鋭い歯で噛まれたりすると大怪我をする恐れがあります。
ドキュメント番組「わたしはこうして襲われた!」に繁殖期のメスのシロワニに襲われた人が出演されていましたが、命は助かったもののまさに九死に一生という壮絶な体験でした。
人間に行動を邪魔されたり、攻撃されない限りは基本的にシロワニは無害なサメなので海の中で見かけてもそっとしておきましょう。
もちろん、野生の生き物の心はわからないので、危険じゃないとは言い切れませんが。
サメに限らず、どんな動物も人間にいたずらされて怒ることはよくあります。
たとえば、犬や猫をからかって怒らせたという経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
サメは魚なので謝ってもわかってもらえません。
面白がっていたずらするのは自分の身が危なくなるだけなのでやめましょう。
シロワニと人間との関わり
シロワニは繁殖周期が2年と長いサメです。また、卵食・共食い型の胎生なので、子宮内の赤ちゃん(胎仔)は母ザメが供給する栄養卵だけでなく、他の胎仔も食べてしまうため2匹しか産むことができないため、漁獲圧力に耐えることができません。
シロワニは、乱獲の影響で個体数が減少しており、絶滅の危険性が高いと見られており、IUCNレッドリストでは野生絶滅目前の深刻な危機(CR / Critically Endangered)、日本国内でも環境省の「海洋生物レッドリスト」で絶滅危惧 IB 類(EN)と評価されています。
保全状況
シロワニは絶滅危惧種?
深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価されています。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
国際自然保護連合(IUCN)は、シロワニを絶滅の危機に瀕している生物に与えられるランクである深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価しています。この「絶滅危惧種(近絶滅種)」は3段階ある絶滅危惧種の中でもっとも絶滅に近く、この次の段階は野生全滅なので、シロワニは危機的な状況にあるといえます。
シロワニと水族館
シロワニは水族館で飼育しやすいサメです。
大型で絶滅危惧種サメですが、水族館では会える確率の高いサメの一種でしょう。
日本トップクラス規模の水族館でサメの飼育数も日本一のアクアワールド茨城県大洗水族館では世界で初めてシロワニの繁殖に成功しました。シロワニの赤ちゃんは2022年12月現在すくすくと育っています。
シロワニと水族館に関することや、シロワニに会える水族館については『シロワニと水族館!シロワニがいる水族館を紹介』をどうぞ!
参考文献一覧
(2)Aquarium of the Pacific, “Sand Tiger Shark Carcharias taurus”, 2021年7月1日に閲覧。
(3)Florida Museum, “DISCOVER FISHES Carcharias taurus”
(4)FishBase, “FishBase”
(5)アントネッラ フェッラーリ、谷内透監修『サメガイドブック―世界のサメ・エイ図鑑』TBSブリタニカ、2001年(初版第2刷)。
(6)スティーブ・パーカー (著)、仲谷一宏 (監修)、 櫻井英里子 (翻訳)『世界サメ図鑑』ネコパブリッシング、2020年(第5刷)。
(7)仲谷一宏『サメ-海の王者たち-改訂版』ブックマン社、2016年(初版第1刷)。
(8)田中彰(監修)『美しき捕食者 サメ図鑑』実業之日本社、2021年(初版第3刷)。
(9)谷内透『サメの自然史』東京大学出版会、1997年(初版)。
(10) David A. Ebert (著), Marc Dando (著), Sarah Fowler (著), Rima Jabado (はしがき, 寄稿) “Sharks of the World” Princeton University Press,2021年