シロワニといえば、水族館でおなじみの大型のサメですが、世界中で乱獲され、その個体数が激減していることをご存知ですか?
IUCNレッドリストでは、三段階ある絶滅危惧種のうち最も絶滅の危機に直面している深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価されている絶滅危惧種のサメなのです。
今回のブログでは、シロワニが絶滅危惧種なのはなぜなのか、その理由を解説します!
シロワニが絶滅危惧種なのはなぜ
シロワニが絶滅危惧種なのはなぜなのか。その理由は以下の3つです。
- 乱獲
- 繁殖力の低さ
- 生息環境の悪化
乱獲
シロワニは、世界各地で漁獲されてきました。特に、オーストラリア、ブラジル、地中海地域などでは、過去に大規模な乱獲が行われ、個体数に大きな影響を与えました。
OCEANAによると、1980年から1990年にかけて、乱獲によりシロワニの個体数は75%減少しました。
シロワニは沿岸域に生息している大型のサメで恐ろしい顔つきをしているのにも関わらず、動きも遅く、おとなしい性格であるためレクリエーションフィッシングの対象にもなってしまったことも個体数が減少する一因となってしまったといえるでしょう。また、シロワニは沿岸域で繁殖行動をする傾向があるため、繁殖期には大量のシロワニを捕獲することが可能だったのも個体数が減る要因だったと推察されます。
近年では、漁業管理の強化や保護区の設置など、保全に向けた取り組みが進められています。
繁殖力の低さ
シロワニはお母さんザメのお腹の中で共食いをする卵食・共食い型の胎生のサメです。
そのため、二つある子宮で生き残るのはそれぞれ1匹なので、最大でも2匹までしか産まれてきません。
大洗水族館のシロワニの赤ちゃんのニュースを覚えていますか?あのときも、シロワニの赤ちゃんは1匹しか産まれていませんよね。
また、繁殖周期が2年と長いため、ちょっとした漁獲圧力でも個体数に影響してしまいます。
このように、シロワニはサメの中でも特に繁殖力が低いため、一度減少してしまうと個体数の回復には時間がかかってしまうのです。
※漁獲圧力とは、簡単に言うと、ある水産資源に対して、漁業によってかけられる圧力のことです。この圧力が強すぎると、水産資源が減少したり、絶滅してしまう可能性があります。
生息環境の悪化
シロワニはサンゴ礁や波打ち際、浅い湾などの沿岸に生息しているため生息地の喪失などの脅威にさらされています。
1997年以降、地球規模の気候変動はサンゴの白化現象を引き起こしています。たとえ、気温上昇が1.5℃に抑えられたとしても、サンゴ礁の面積の大幅な減少と局地的壊滅に見舞われると予測されています(IPCC 2019)。そうなると、シロワニの餌になる生きものも減ってしまう可能性が高いため、個体数に悪影響を与えてしまう可能性があります。
一方、気候変動により、一部の地域ではシロワニの生息可能な環境がさらに広がると予測されており、それによって種の回復と回復力が高まる可能性もあるそうです(Bradshaw et al. 2008)。
シロワニの現在の個体数は
世界的には、シロワニは、過去3世代(74年)の間に個体数が80%以上減少しているとみられています。
シロワニの現状
- 日本:小笠原諸島周辺のごく限られた島しょ域でのみで琉球列島からは未報告。1960年代には東シナ海でも採集されていたが、それ以降は隣接する台湾沿岸での数例を除くと確実な出現事例は報告されておらず、現在ではほとんど生息していない可能性がある。
- オーストラリア東部: 過去74年間で80%以上の個体数が減少し、絶滅危惧種に。
- 南西大西洋: ブラジルやウルグアイで漁獲量が激減し、絶滅危惧種に。
- 地中海: 個体数が極めて少なく、絶滅寸前。
- アラビア海: 数十年間確認されておらず、絶滅の危機が懸念されている。
日本近海では黄海、中国東シナ海沿岸、台湾、国内では相模湾から九州南岸の太平洋沿岸、伊豆諸島、小笠原群島の沿岸域に生息しているとされていますが、日本近海でも、1966-68年の東シナ海大陸棚沿岸での捕獲記録が最後の記録となっています※1。
国内では、唯一、小笠原群島だけに、今でもシロワニが暮らしています※1。※1...2024年9月現在、正式な標本記録として現在残っているものは以下となり、これ以外の正式記録が見つかっていないため上記の通り表記しています。
<日本沿岸>
・1937年6月に下関から1標本(ZUMT63861):東京大学総合研究博物館動物部門所蔵魚類標本リスト(3),by Koeda et al.(2024),東京大学総合研究博物館標本資料報告第132号
・1939年以前に相模湾から1標本(BMNH1939.7.20.3:Odontaspis taurusとして):by 大英博物館データベース<日本近海の正式標本記録>
・1966年から5月、1968年にかけて東シナ海で採取された全身標本8個体と顎16個が、東京大学総合博物館と長崎大学水産学部に保存されている。
シロワニの分布域は広いものの、多くの地域で個体数が激減していたり、地域内で絶滅しています。
シロワニの個体数動向は
IUCNによると、シロワニの個体数動向データでは、過去3世代(74年間)の間に、オーストラリア東部で80%以上の減少、北西大西洋と南アフリカで30〜49%の減少が推測されています。
南西大西洋、地中海、アラビア海域では、もはや遭遇できないか、めったに遭遇できない、危機的な絶滅の危機に瀕している疑いがあります。
西アフリカと東南アジアでは、現在も高いレベルの漁業圧力があり、過去3世代(74年)の間に80%以上の同レベルの減少があったと推測されています。
全体として、シロワニはオーストラリア西部を除く全分布域で減少していると推定されています。
北西大西洋、南アフリカ、オーストラリア東部のように、管理措置が以前から実施されている場所では回復開始の兆しがあるとのことです。
シロワニの保全ステータス
国際自然保護連合(IUCN)レッドリスト
シロワニは絶滅危惧種?
深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価されています。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
国際自然保護連合(IUCN)は、シロワニを絶滅の危機に瀕している生物に与えられるランクである深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価しています。
この「絶滅危惧種(近絶滅種)」は3段階ある絶滅危惧種の中でもっとも絶滅に近く、この次の段階は野生全滅なので、シロワニは危機的な状況にあるといえます。
日本の環境省「海洋生物レッドリスト」
環境省と水産庁は2017年3月に絶滅の恐れがある海の生き物をまとめた「海洋生物レッドリスト」を初めて発表。サンゴの仲間オガサワラサンゴ1種を「絶滅」に、シロワニを「絶滅危惧 IB類」と評価しました。
少なくとも近年においては、日本では小笠原諸島周辺のごく限られた島しょ域でのみ報告されている。
琉球列島からは未報告である。1960 年代には東シナ海でも採集されていたが、それ以降は隣接する台湾沿岸での数例を除くと確実な出現事例は報告されておらず、現在ではほとんど生息していない可能性がある。
繁殖周期は2年である。卵食・共食い型の胎生で、子宮内の幼魚(胎仔)は、母ザメが供給する栄養卵だけでなく、他の胎仔も食べて栄養源とする。
分布が限定的であることに加え、共食い型で産仔数が少なく(通常2個体)、さらなる個体数の減少が懸念されることから、絶滅の危険性が高いと判断し、絶滅危惧 IB 類(EN)に選定した。引用:環境省「海洋生物レッドリスト掲載種において注目される種のカテゴリー(ランク)とその評価の理由」、https://www.env.go.jp/content/000037633.pdf
ワシントン条約(CITES)
- ワシントン条約(CITES)
- 掲載なし
シロワニはワシントン条約(CITES)には掲載されていません。
シロワニの保護に向けた取り組み
シロワニの絶滅を防ぐために、多くの国や地域でさまざまな保護対策が実施されています。
日本
2024年02月14日、小笠原群島に生息するサメ、シロワニの生態・繁殖回遊調査、保全活動を推進するNPO法人「小笠原シロワニ保全研究会」が設立されました。小笠原シロワニ保全研究会は、2018年に公益社団法人日本動物園水族館協会(JAZA)に加盟し、シロワニを飼育している水族館が集まって設立された「シロワニ繁殖協議会」が起源となっています。
シロワニ繁殖協議会
- 登別マリンパークニクス
- アクアワールド茨城県大洗水族館
- しながわ水族館
- 東海大学海洋科学博物館
- 横浜・八景島シーパラダイス
- マリンワールド海の中道
シロワニ保全クラウドファンディング
「小笠原シロワニ保全研究会」によるクラウドファンディングが行われています(2024年11月現在)。
このプロジェクトでは、シロワニ保全3ヵ年計画としてシロワニの個体数の調査、回遊経路の解明、夏期の滞在場所の調査などが計画されています。
https://readyfor.jp/projects/shirowani
日本におけるシロワニの唯一の生息地である小笠原で調査が進むことで、シロワニたちの未来を守られることを願います。
アメリカ
アメリカでは、1997年に大西洋のサメを対象とした漁業管理計画(Fishery Management Plan for Atlantic Sharks)により、禁漁種に指定されました(Carlson et al. 2009)。
オーストラリア
オーストラリアでは、1979年にこの種の捕獲をオーストラリア水域でゲームフィッシャーが自主的に禁止し、1984年にニューサウスウェールズ州で保護され、1997年には国の環境保護生物多様性保全法で絶滅危惧種に指定され、オーストラリア全域でシロワニの捕獲と所有が違法となりました。2002年にシロワニの回復計画が採択され、2014年に更新されました。2001年から2009年にかけて、オーストラリア東部では、26の海洋保護区が設置されました(Lynch et al. 2013)。
その他の国
アルゼンチンでは、レクリエーション漁業によるシロワニの水揚げを禁止しています。地中海では、バルセロナ条約の締約国は、シロワニの捕獲を禁止し、可能な限り無傷で生存した状態でリリースすることに合意。南アフリカでは、世界の他の地域での個体数減少傾向への予防的アプローチとして、1998年の海洋生物資源法により、商業漁業から保護されました。
まとめ
シロワニは、水族館という身近な場所で接することが多いので、多くの人にとってなじみが深いサメです。水族館では、ときどき「ジョーズ!」「ホホジロザメ!」と呼ばれていることもありますが、それ以上に「シロワニだ!」という方が多いように感じます。
日本でも、シロワニの保全活動が多くの人の目に触れることで、サメの保全に対しての意識が高まっていけばいいなと思います。
参考文献
(1)IUCN “Sand Tiger Shark”, https://www.iucnredlist.org/species/3854/2876505、2024年11月28日に閲覧。
(2)Florida Museum “Carcharias taurus – Discover Fishes”, https://www.floridamuseum.ufl.edu/discover-fish/species-profiles/carcharias-taurus/、2024年11月28日に閲覧。