ヨゴレ(Carcharhinus longimanus)はハイタッチしたくなるような大きな胸ビレが自慢のサメです。
ブリモドキと賑やかに泳いでいる姿が印象的ですよね。
その一方、ヨゴレは危険性の高い人食いザメとして有名なホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメよりも怖い最悪の人食いサメという意見も・・・!?
このブログでは、広大な大海原を飛行しているかのようなヨゴレの特徴などを解説します。
外洋性のサメのヨゴレとは
まず、ヨゴレの基本情報を紹介します。
外洋性のサメヨゴレの基本情報
ヨゴレ(学名:Carcharhinus longimanus 英語名:Oceanic whitetip shark)は、メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)のサメです。
ネット検索では「ヨゴレザメ」として出てくることがありますが、標準和名はヨゴレです。
- 標準和名
- ヨゴレ(汚)
- 別名
- ヨゴレザメ、汚れザメ(※ネット検索で使われますが標準和名ではないので注意!)
- 英語名
- Oceanic whitetip shark
- 学名
- Carcharhinus longimanus
- 分類
- メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)
- 命名された年
- 1861年(Poey)
- 保全状況
- 絶滅危惧種:深刻な危機(CR / Critically Endangered)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2013年)
- 最大全長
- 最大4m
- 危険度
- シャークアタックの回数
- 15件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 3件のサメによる死亡事故(1580-2023年)
- 生息年代
- 4500万年前(Ref.6 p.21)。
- 水族館で会える可能性
- ペットとして飼育できる可能性
ヨゴレの生態
ここでは外洋性のサメ「ヨゴレ」の生態について解説します。
見た目の特徴(形態)
- 胸ビレが長い
- 顔はいわゆるメジロザメ顔
- 第一背びれが大きくて丸い
- ヒレの端が白い
ヨゴレの外見的特徴はなんといっても大きくて長い胸ビレです。
遊泳性のサメの胸ビレは巨大なものですが、ヨゴレの胸ビレの大きさはなんと全長の25%、その幅は全長の10%です。
つまり、最大全長の4mのヨゴレなら、胸ビレの大きさは1m、幅は40mです。
ヨゴレの体の色は、青銅色、褐色、灰青色で生まれた場所によって異なります。
大きな胸ビレは広範囲が白いのが特徴です。
分布域と生息域
分布域
ヨゴレは、北緯30度から南緯35度の遠洋性の熱帯・亜熱帯海域の全海域の広い範囲に分布するサメのひとつです。
通常、外洋のはるか沖合に生息し、水深200mより浅い水深を好みます。
米国南部から大西洋西部のアルゼンチン、ポルトガルから南アフリカ、そして大西洋東部の地中海にまで及びます。
インド太平洋では、この種は東南アジアの紅海と東アフリカから中央太平洋(ハワイ、サモア、タヒチ、トゥアモトゥ諸島)から東太平洋にかけて見られ、南カリフォルニアから米国で見られます。
生息域
ヨゴレは基本的には外洋性のサメですが、沿岸域と外洋域の両方に生息しており、表層から水深20mまでの浅い生息域や20℃以上の水温を好むサメです。
太平洋のはえ縄捕獲データから、ヨゴレの生息数は陸地から離れるほど増加することがわかっています。
通常は水深0~152mあたりの表層を好みますが、水深1,082mまで報告されています(参照)。
YouTubeの動画などでもヨゴレは海表面近くをゆっくりとしたスピードで遊泳している姿が多く目撃されていますよね。
この動画は野生のヨゴレの姿がよくわかるところがおもしろいです。
海面すれすれを泳いでいるときにもブリモドキたちと群れているんですね。
日本国内での分布域
ヨゴレの日本国内での分布域は日本の南方の外洋域です。
日本のまぐろはえ縄漁業で混獲されるので、マグロがいる海域、四国、紀伊半島沖海域、沖縄トラフ周辺海域、薩南(種子島・屋久島から奄美大島)あたりの外洋域が日本近海のヨゴレの生息海域であると考えられます。(Ref.2)。
ヨゴレの数が減少傾向にあるので、今も日本の海域に生息しているのかどうかは気になるところです。
大きさ
- 大きさ
- 180〜200 cm、平均的な全長は2.7m
- 最大全長
- 最大4m
- 体重
- 〜167.4 kg
寿命
- 寿命
- 15歳。
※サメの年齢を推定するのは難しく、多くのサメが過小評価されている可能性があるので今後さらに長くなる可能性もあります。
- 最大寿命
- 22歳
ライフスタイル
- 泳ぐ速度
- 32.4キロ
- 性格
- 好奇心旺盛。しつこい。
- 1日の過ごし方
- 興奮すると猛スピードで泳ぐ。性別や年齢で行動パターンに変化。
- 好きな食べ物
- カツオ、頭足類、海鳥、カメ類
- 海の仲間のお友達
- ブリモドキ、コバンザメ、シイラ。コビレゴンドウの群れに混じって行動することもある。
好きな食べ物
ヨゴレが捕食するのは、硬骨魚類、頭足類、甲殻類、海鳥、ウミガメ、エイ、哺乳類(鯨類)の死骸などが含まれ、海に浮遊するゴミを口にすることもある食いしん坊なサメといわれていますが、この動画では船の上から差し出された死んだ魚には興味を示さないところが気になる点です。
ヨゴレが暮らす外洋は餌が乏しい環境であり、ヨゴレは餌を見つけると動きが活発になり狂乱索餌と呼ばれる状態になることもあります。
イタチザメが個体のサイズで性格が変わるといわれているようにヨゴレも個体サイズと性格に関連性があるのでしょうか。
性格
好奇心旺盛。
非常に執拗な性質。
堂々とゆったりした泳ぎにだまされやすいが、興奮すると一転して激しく泳ぎを加速してくる(Ref.1)。
知能
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校海洋保全化学研究所のデミアン・チャップマンによると、釣り船がエンジンを停止したときに船を調べればエサにありつけることをヨゴレが学習していることをプレイバック実験で示しました(Ref.7 pp.140-141)。
エンジンが停止する=これからそこで魚釣りがはじまる
つまり、ヨゴレはエンジンが停止する音を合図に「エサにありつけるぞ!」ということを学習しているんですね。
交友関係
大型魚、船、流木などに付いて泳ぐ習性から、パイロットフィッシュという英名をもつブリモドキと一緒に泳いでいる写真が印象的なヨゴレ。
コバンザメ、シイラ。コビレゴンドウの群れに混じって行動していることもあります。
また、ハワイの海域でコビレゴンドウ(クジラ類ハクジラ亜目マイルカ科に含まれる小型のクジラ)と一緒に泳ぐ姿が観察されています(1988年 Jeremy Stafford-Deitsch)が、ヨゴレが他の魚類と行動を共にする理由は不明です(Ref.4)。
ヨゴレの写真や動画ではたいていブリモドキたちと群れています。
繁殖
- 繁殖方法
- 胎生
- 妊娠期間
- 10〜12か月
- 出産数
- 1〜14匹
- 幼魚の大きさ
- 57〜77cm
- 繁殖サイクル
- 2年ごとの可能性が高い
- 成熟年齢
- 4〜7歳(地域差がある)
- 成熟サイズ
- オス:1.7〜1.9m、メス:1.8〜2.0m
ヨゴレの繁殖は胎生で胎盤型です。
妊娠期間は人間と同じくらいで10~12か月、出産数は1〜14匹と少なく、繁殖サイクルは2年ごとの可能性が高いため、個体数増加率は非常に低く、乱獲に対して非常に弱いサメです。
ヨゴレは人食いザメなの?人間への危険性は?
沿岸性のサメではホホジロザメ・イタチザメ・オオメジロザメが人間にとって危険性の高い人食いザメですが、外洋性のサメではヨゴレは最も危険なサメのひとつです。
大型のヨゴレは人間にとって危険性が高いサメなので、海中で遭遇した場合は細心の注意を払って行動する必要があります。
また、海洋学者のジャック=イヴ・クストーは、ヨゴレについて「あらゆるサメの中で最も危険」と述べています(Ref.5)。
危険性
- 危険度
- シャークアタックの回数
- 15件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 3件のサメによる死亡事故(1580-2024年)
国際的なサメによる被害情報のデータベース「インターナショナル・シャーク・アタック・ファイル(International Shark Attack File)」に記録されているヨゴレによるサメ事故は最悪の結果が3件、負傷が12件です。
この記録だけ聞くと、「ヨゴレの危険性について聞いていた話と違う!」と思う方も多いでしょう。
ヨゴレは記録されていないサメ事故の犯人ではないかと疑われているサメです。
たとえば、海上で船や飛行機の残骸につかまり助けを待つ生存者に対する攻撃などが、ヨゴレの仕業だと考えられています。
その中でも特に有名なヨゴレによるサメ事故は、太平洋戦争末期の1945年にインディアナポリス号沈没する際に起きた「史上最悪のサメによる襲撃」です。
インディアナポリス号沈没のときに起きたヨゴレによる史上最悪のサメによる襲撃とは
太平洋の基地からアメリカに戻る途中、日本軍の魚雷攻撃により、インディアナポリス号は沈没。
インディアナポリス号のおおよそ900人の乗組員は漂流物につかまりながら海を漂流して助けを待ちましたが、4日後に救助されたのはわずか300名。
船の沈没から2日が過ぎたころ、ヨゴレとヨシキリザメは船の周囲を泳ぎ、その数は数百匹!
生存者の証言によれば、ヨゴレとヨシキリザメによる攻撃は夕方に発生し、その時間になるとあちこちから悲鳴が聞こえたそうです(Ref.1)。
※インディアナポリス号の事件は映画化(パシフィック・ウォー(字幕版))されています。
そのほかのヨゴレによるサメ事故
1942年にイギリスの客船ノバスコシアが南アフリカ沖のインド洋で沈没し1,052名の乗員のうち858名が死亡した事故が起きた際にも同様にヨゴレによる攻撃があったのではないかと考えられています。
ゆえに、太平洋戦争の時代においては記録にないヨゴレによる攻撃も発生している可能性があるようです。
イギリスのThe Guardianによると、2010年11月下旬から12月にかけて、シナイ半島の砂漠と紅海との間にあるエジプトのリゾート地のリゾート地シャルム・エル・シェイクでサメ事故が起き、5人の観光客がサメの攻撃により死傷。
このサメ事故の犯人が全長2.25mのヨゴレです。
エジプトのこの地域におけるサメ死亡事故は5年ぶり。
1月に発生していましたが、シャルムエルシェイクから遠く離れたマルサアラムのすぐ南であり、その水の美しさとその安全性で知られるリゾートで起きたサメの攻撃はほとんど前例のないものでした。
シャルム・エル・シェイクは静かな砂浜、澄んだ水、珊瑚礁で知られています。
ヨゴレに噛みつかれるサメ事故の動画
※小型のヨゴレによる噛みつき事故なので、サメのパニック映画のような動画ではありませんが、実際にヨゴレに噛みつかれるシーンがあるので閲覧注意です。
この動画を見て思い出したのが、奄美大島沖漁船転覆事故でイタチザメと戦い九死に一生を得て生還した漁師が語った「人喰いザメとの死闘」です。
下半身が裸だったから、サメが寄ってきて、僕とAさんだけが集中的に狙われたんだと思います。B君とCさんはズボンを脱がなかったから、露出していた足先しか嚙まれていないんです。
サメは食べられる所か食べられない所なのか分かるんでしょうね。衣類を嚙まれた人は誰もいない。結局肌の露出が多かったから狙われたということでしょう。
引用:奄美大島沖漁船転覆事故生還した漁師が語った「人喰いザメとの死闘」
ヨゴレの噛みつき動画でも、衣服ではなく肌の露出が多い部分を狙っています。
ヨゴレの人食いザメとしての危険性について考察
人食いザメとしてのヨゴレの危険性について考察してみました。
- ヨゴレは外洋にいる
- 海難事故も外洋で起きる
- 海に多くの人々が投げ出される
- 大型のヨゴレが捕食する獲物と人間の大きさが近い
- ヨゴレは外洋という餌が乏しい環境に生息している
一般的に人食いザメとして恐れられているのは、ホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメです。
これらのサメは沿岸性なので、外洋性のヨゴレよりは人間と遭遇する機会が多いサメといえます。
ヨゴレは海難事故で海に投げ出された人くらいしか遭遇する機会はありません。
危険度だけでいうと、ホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメと同じくらいかもしれませんが、普通に海のレジャーを楽しむ人とヨゴレが出会う機会はないでしょう。
また、ヨゴレは近年乱獲や餌となるカツオの減少により個体数が激減、小型化が進んでいます。
小型化しているといっても、あの鋭い歯は怖いですよね。
もしも、ヨゴレに遭遇したら、ものめずらしさでふざけたりはしないほうが安全そうです。
ヨゴレを水族館で見たい
ヨゴレは飼育が難しいサメの一種です。
また、攻撃的な性格のため、水槽は単独か一緒に入れる相手を厳選する必要があります(Ref.1)。
過去に「ヨゴレ」を展示したことのある水族館は、国内では沖縄県の「国営沖縄記念公園水族館(現在の美ら海水族館)」のみです。
2023年1月現在、「ヨゴレ」を展示している水族館はありません。
ヨゴレは絶滅危惧種?
危険なサメと見られがちなヨゴレですが、実は絶滅危惧種のサメです。
IUCNレッドリストでヨゴレは、三段階ある絶滅危惧種の中でも最も絶滅の危機に直面している深刻な危機(CR / Critically Endangered)と評価され、その個体数は世界中で大幅に減少しています。
ヨゴレの動画
水族館で飼育されているのを見たこともなく、サメ図鑑で見るばかりのヨゴレ。
動画で見ると、その美しさに心を奪われます。
大きな胸ビレがかわいいです。
おわりに
いつか会ってみたいヨゴレ。
もちろん海以外の場所がいいです 笑
サメケージダイビングとは?檻の向こうに巨大ホホジロザメという究極のサメ体験
参考文献一覧
(2)国立研究法人海洋研究開発機構 海洋工学センター運航管理部 海域調整グループ『漁業の時期と海域について』、2021年3月3日に閲覧。
(4)Discover Fishes『Carcharhinus longimanus』、2021年3月3日に閲覧。
(5)Smithsonian Ocean『The Most Dangerous of All Sharks』、2021年3月3日に閲覧。
(6)ジョン・A・ミュージック『サメとその生態 (insidersビジュアル博物館) 』昭文社、2008年(初版)。
(7)ジョナサン・バルコム (著), 桃井緑美子 (翻訳)『魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行動するか』白揚社、2018年(第1版第1刷)。
(8)スティーブ・パーカー (著)、仲谷一宏 (監修)、 櫻井英里子 (翻訳)『世界サメ図鑑』ネコパブリッシング、2020年(第5刷)。
(9)仲谷一宏『サメ-海の王者たち-改訂版』ブックマン社、2016年(初版第1刷)。
(10)田中彰(監修)『美しき捕食者 サメ図鑑』実業之日本社、2021年(初版第3刷)。
(11)谷内透『サメの自然史』東京大学出版会、1997年(初版)。
(12) David A. Ebert (著), Marc Dando (著), Sarah Fowler (著), Rima Jabado (はしがき, 寄稿) “Sharks of the World” Princeton University Press,2021年