ホホジロザメの赤ちゃんはなぜ白い膜に包まれていたのか?
沖縄美ら島財団の研究チームが、その謎を解き明かしました。カリフォルニア沖で発見されたホホジロザメの新生仔の体を覆っていた白い膜は、実は皮膚であり、出産後に脱ぎ捨てることを解明し、ホホジロザメの繁殖生態に新たな知見が加わりました。
今回のブログでは、プレスリリース、【(一財)沖縄美ら島財団】謎解明!ホホジロザメの赤ちゃんは生まれたあとに「一皮剥ける」を解説します!
◼︎ポイント
- 昨年北米で目撃されたホホジロザメの新生仔は、体が「白い膜」で覆われていた。
- 近縁種を研究し、「白い膜」の正体が胎仔の皮膚であることを明らかにした。
- 彼らは出生後まもなく皮膚を一枚脱ぎ捨てていると考えられ、ホホジロザメの知られざる出生直後の生態についての新知見が得られた。
世界で初めて、ホホジロザメの赤ちゃんの撮影に成功
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2023年7月9日、カリフォルニア州サンタバーバラ沖で歴史的な出来事が起こりました。世界で初めて、ホホジロザメの赤ちゃんがその姿をカメラに捉えられたのです。
野生動物映像作家のカルロス・ガウナ(Carlos Gauna)さんと、カリフォルニア大学リバーサイド校の博士課程学生フィリップ・スターンズ(Phillip Sternes)さんが、ドローンで海を調査していたところ、全身が白っぽい、体長1.5mほどのホホジロザメが海面に姿を現しました。二人はこの観察を論文にまとめ、2024年1月に学術誌 Environmental Biology of Fishes で発表しています(Gauna & Sternes 2024)。
この海域は、過去40年にわたる研究でホホジロザメの出産場所の有力候補と考えられてきた場所です(沖縄美ら島財団 2024)。今回の発見は、その説を裏づける出来事として大きく報道されました。
この発見は、これまで謎に包まれていたホホジロザメの繁殖の秘密を解き明かす上で、非常に重要な一歩となります。
ガウナさんとスターンズさんは論文の中で、この個体について二つの可能性を挙げていました。生まれたばかりの新生仔である可能性と、これまでホホジロザメでは報告例のない皮膚の異常である可能性です。二人は前者の可能性が高いと考えていました。撮影地点はカリフォルニア州カーピンテリア沖0.4km、全長は1.5±0.2mと推定されています(Gauna & Sternes 2024)。
ホホジロザメの赤ちゃんを包む白い膜
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ドローンで撮影されたホホジロザメの赤ちゃんの体は「白い膜」で覆われていました。研究者らは、ホホジロザメのお母さんの子宮ミルクが赤ちゃんの皮膚に付着した名残だと考え、このサメが赤ちゃんである証拠と考えました。
*過去のプレスリリース参照:「母ザメが子宮の中でミルクを与える? 魚類最強のハンター ホホジロザメの不思議な繁殖方法を解明!」
ホホジロザメ(Carcharodon carcharias)の母ザメは、妊娠初期に子宮の中で脂質を多く含む液体を分泌します。これが「子宮ミルク」です。胎仔はこのミルクを飲んで育ち、全長70〜80cmほどになると、無精卵を食べる「卵食」へ切り替わります。沖縄美ら島財団の研究チームが2016年に解明しました(Sato et al. 2016)。
なお、論文の邦題にある「羊水成分」は、この子宮ミルクを含む子宮内の液体成分をまとめて指す言葉です。この記事では、日本で広く使われている「子宮ミルク」の呼び方で統一しています。
「白い膜」説への疑問
ところが、一般財団法人沖縄美ら島財団の研究チームは、この説に以下の2つの疑問点を抱きました。
- 疑問点①:出産直前の子宮ミルク分泌の停止
- 疑問点②:子宮ミルクの付着時間の短さ
疑問点①:出産直前の子宮ミルク分泌の停止
これまでの研究から、ホホジロザメの子宮ミルクは妊娠中期に分泌が止まることが分かっています。つまり、出産直前の胎児の周囲には、子宮ミルクはほとんど存在しない状態です。
疑念①:出産直前に子宮ミルクは分泌されていない。
私たちの過去の研究によれば、ホホジロザメの子宮ミルクの分泌は妊娠中期に止まっており、妊娠後期の羊水には、胎仔の皮膚に付着するような成分は含まれていません。
疑問点②:子宮ミルクの付着時間の短さ
妊娠初期のホホジロザメの胎児に付着した子宮ミルクは、水ですぐに洗い流せるほど、胎児の体にはしっかりとくっついていません。そのため、出産時にわずかに子宮ミルクが付着したとしても、それが長時間残ることは考えにくいのです。
疑念②:皮膚に付着した子宮ミルクが出産後に長時間残るとは考えにくい。
私たちの観察では、妊娠初期のホホジロザメ胎仔の体表に付着した子宮ミルクは、水で容易に洗い流すことができます。そのため、仮に出産時のホホジロザメの体に子宮ミルクが付着したとしても、出産後の体表に長時間残るとは考えにくいと思われます。
白い膜の正体はホホジロザメの赤ちゃんの皮膚
図1 :ネズミザメの胎仔(左)とその拡大写真(右)。表皮(*)を一枚剥がすと、下から鱗に覆われた本来の表皮が現れる。
ホホジロザメに近縁なネズミザメの胎仔を調査した結果、胎仔の皮膚に興味深い構造が見つかりました。本来、体表面を覆っている鱗の外側に、もう一層表皮があることが分かりました(図2)。
ホホジロザメの近縁種であるネズミザメ(Lamna ditropis)の胎仔を詳しく調べたところ、興味深い事実が明らかになりました。胎仔の皮膚には、通常の鱗の外側にもう一枚の薄い膜のような層があることが分かったのです。
図2:ネズミザメ胎仔の表皮断面の顕微鏡写真。鱗の外側を一枚余剰な表皮が覆っている。この表皮はピンセットなどでつまむと体表から容易に剥離します(図1)。この剥離途中の表皮は、カリフォルニア沖でドローン撮影されたホホジロザメの「白い膜」の見た目と良く一致します。すなわち、この映像は胎仔の体表を覆っていた表皮が剥がれ落ちている過程を捉えたものと考えられます。
この膜の見た目は、生まれた直後のホホジロザメが体につけていた「白い膜」とよく似ています。
なお、Tomita et al.(2024)の論文本体では、この説明は「白い膜は胎仔期の表皮である」という仮説として提示されています。ネズミザメの標本から得られた構造をもとにした解釈であり、カリフォルニア沖の個体そのものを直接調べたわけではありません。
ホホジロザメの進化の知恵
この現象には重要な意味があります。
サメの鱗は硬く、胎内で兄弟や子宮を傷つける可能性があります。そこで、出産までは柔らかい皮膚で覆い、生まれてから本来の鱗を露出させるという巧妙な仕組みを進化させたのかもしれません。
サメの鱗は硬い鉱物(アパタイト)でできており、体表を傷から守る役割があります。一方で、胎仔の硬い鱗が体表に露出していると、子宮の内壁や、子宮内に同居する兄弟を傷つけてしまう恐れがあります。そこで、胎仔の間は鱗の外側を一枚皮膚で覆っておき、産まれた後にその皮膚を脱ぎ捨てる仕組みを進化させたのかもしれません。今回の研究は、謎多きホホジロザメの繁殖生態に新たな知見を加えるものと言えます。
ホホジロザメ新生仔を覆っていた白い膜は、羊水成分ではなく胎仔の皮膚だった
発表雑誌
雑誌名:Environmental Biology of Fishes
論文名:Whitish film covering a newborn white shark was not intrauterine material but embryonic epithelium
(ホホジロザメ新生仔を覆っていた白い膜は、羊水成分ではなく胎仔の皮膚だった)
著者名:冨田武照、宮本圭、中村將、村雲清美、戸田実、佐藤圭一
(一般財団法人沖縄美ら島財団)
掲載日:2024年5月28日(電子版 閲覧のみ)https://rdcu.be/dJhXB
書誌情報:Environmental Biology of Fishes, 107(6), 719–722. DOI: 10.1007/s10641-024-01560-z
■代表研究者プロフィール■
冨田武照(とみた たけてる):2011年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。フロリダ州立大学研究員等を経て、2015年より当財団総合研究所所属。主査研究員。専門はサメの機能形態学。
参考文献一覧
- Gauna, C. & Sternes, P. C. (2024) Novel aerial observations of a possible newborn white shark (Carcharodon carcharias) in Southern California. Environmental Biology of Fishes, 107, 249–254. https://doi.org/10.1007/s10641-024-01512-7
- Tomita, T., Miyamoto, K., Nakamura, M., Murakumo, K., Toda, M. & Sato, K. (2024) Whitish film covering a newborn white shark was not intrauterine material but embryonic epithelium. Environmental Biology of Fishes, 107(6), 719–722. https://doi.org/10.1007/s10641-024-01560-z
- Sato, K., Nakamura, M., Tomita, T., Toda, M., Miyamoto, K. & Nozu, R. (2016) How great white sharks nourish their embryos to a large size: evidence of lipid histotrophy in lamnoid shark reproduction. Biology Open, 5, 1211–1215. https://doi.org/10.1242/bio.017939
- 一般財団法人沖縄美ら島財団 (2024) 謎解明!ホホジロザメの赤ちゃんは生まれたあとに「一皮剥ける」. https://www.churashima.okinawa/pressrelease/1716969248/ (accessed 2026-07-19).
- 一般財団法人沖縄美ら島財団 (2016) 母ザメが子宮の中でミルクを与える? 魚類最強のハンター ホホジロザメの不思議な繁殖方法を解明!. https://www.churashima.okinawa/pressrelease/1523848313/ (accessed 2026-07-19).
この記事は、(一財)沖縄美ら島財団のプレスリリース【(一財)沖縄美ら島財団】謎解明!ホホジロザメの赤ちゃんは生まれたあとに「一皮剥ける」をもとに、サメペディアが編集したものです。




