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海の環境問題

ブルージャスティス(Blue Justice)とは?海洋開発で問われる3つの公正

2026年7月18日

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ブルージャスティス(Blue Justice)とは?海洋開発で問われる3つの公正

海を守りながら、海から新しい産業や利益を生み出そうとする動きが広がっています。
洋上風力発電、海洋保護区、養殖、観光、ブルーカーボン、深海採掘。海を利用する方法が増えるほど、誰が利益を受け取り、誰が負担を引き受けるのかという問いも大きくなります。

ブルージャスティス(Blue Justice)とは、海洋開発や保全政策によって生じる利益と負担、意思決定への参加、地域の文化や知識の扱いに公正があるかを問う考え方です。

環境に良いとされる政策でも、地域の人びとが漁場や生活の基盤を失うことがあります。経済的な利益が一部の企業へ集まり、環境への危険だけが沿岸地域へ残されることもあります。

この記事では、ブルージャスティスの意味、三つの公正、どのような問題で使われるのか、日本での使われ方、サメ保全との関係を紹介します。

ブルージャスティス(Blue Justice)とは

ブルージャスティスは、ブルーエコノミーやブルーグロースと呼ばれる海洋開発を、公正という視点から問い直す考え方です。

ブルーエコノミーとは、漁業、観光、海運、養殖、海洋エネルギー、海底資源開発など、海を利用して経済活動や雇用を生み出す取り組みを指します。海洋環境を守りながら経済を発展させる考え方として期待されていますが、すべての人が同じように利益を得られるとは限りません。
大規模な海洋開発によって、沿岸で暮らす人びとや小規模漁業者が漁場から排除されたり、政策を決める話し合いに参加できなかったりすることがあります。

ブルージャスティスという言葉は、2018年にタイで開かれた第3回世界小規模漁業会議で提起されました。会議では、ブルーエコノミーの名のもとで小規模漁業が不利な立場へ追いやられていないかを検討する必要があると議論されました(TBTI 2018)。

そのため、初期のブルージャスティス研究では、小規模漁業者の漁場へのアクセス、生活、権利、政策参加が主な対象でした。

その後、研究対象は広がっています。現在では、小規模漁業者だけでなく、先住民、沿岸地域、女性、移住労働者などが海洋開発や保全政策から受ける影響も論じられています(Blythe et al. 2023)。

ブルージャスティスが問う三つの公正

海洋開発や保全政策が公正かどうかを見るとき、主に配分、手続き、承認という三つの公正が問われます(Bennett et al. 2021)。

配分の公正
利益と損失を誰が受け取るのか。

手続きの公正
誰が決定に参加し、その発言が実際の政策へ反映されるのか。

承認の公正
地域の文化、生活、権利、経験、海についての知識が正当に扱われるのか。

配分の公正|利益と負担は誰に渡るのか

海洋開発によって得られる利益と、環境や生活への負担がどのように分けられるのかを問います。
たとえば、洋上風力発電によって都市へ電力が供給され、開発企業が利益を得る一方、沿岸の漁業者が漁場の制限を受ける場合があります。

海洋観光による収入が地域へ十分に還元されず、一部の企業だけに集まる場合もあります。

誰が利益を得るのか。誰が漁場や収入を失うのか。環境への危険を誰が負うのかを確認します。

手続きの公正|誰が決定に参加できるのか

説明会や意見募集が行われたというだけでは、手続きが公正だったとは限りません。
地域の人びとが計画の初期段階から参加できたのか。反対意見や修正案が、実際の決定へ影響したのか。参加するための時間、情報、言語、費用が確保されていたのかが問われます。
すでに計画の大部分が決まった後で説明を受けても、地域の人びとが選択を変えることは難しくなります。

承認の公正|誰の文化や知識が認められるのか

沿岸地域の人びとは、長年の漁や生活を通じて、海流、魚の移動、産卵場所、季節の変化などを知っています。

その知識が「科学的な調査ではない」という理由だけで無視されれば、地域の人びとは知識を持つ当事者ではなく、説明を受けるだけの存在として扱われます。

また、海は資源を採取する場所であるだけではありません。食料、仕事、文化、信仰、家族の記憶と結びついている地域もあります。
こうした海との関係を、経済効果より価値の低いものとして扱っていないかを問うのが承認の公正です。

ブルージャスティスはどのような問題で使われるのか

海洋保護区と地域の漁業

海洋保護区は、生物や生息地を守るために必要な制度です。
しかし、地域の漁業者が長く利用してきた漁場を、十分な話し合いや代替策なしに閉鎖すれば、保全による負担が一部の人びとへ集中します。

保護区の設置によって観光業者が利益を得る一方、漁業者が収入を失う場合には、利益の分け方も問われます。

洋上風力発電と漁場

洋上風力発電は、温室効果ガスの排出を減らす方法として各地で開発が進められています。
一方、建設海域や送電設備によって操業場所が変わる場合があります。漁業者がどの段階から協議へ参加したのか、補償だけでなく漁業を続ける方法まで話し合われたのかが問われます。

深海採掘と島嶼・沿岸地域

深海採掘では、鉱物を利用する国や企業と、環境への危険を引き受ける地域が離れている場合があります。
深海の生物について十分な情報がないとき、影響が分からないから立ち止まるのか、まず調査や開発の手続きを進めるのか。誰がその判断を下すのかも問われます。

アメリカ領サモア沖の深海採掘計画では、現地政府が反対する一方、米政府が海底鉱物のリース競売案を前へ進めています。

詳しくは、アメリカ領サモア沖の深海採掘計画とサメへの影響で紹介しています。

養殖、観光、ブルーカーボン

大規模な養殖場、海洋観光施設、藻場やマングローブを利用したブルーカーボン事業でも、海域の利用者が変わることがあります。
地域の人びとが従来利用してきた海へ入れなくなっていないか。事業から得られる収入が地域へ戻っているか。女性や小規模な事業者が話し合いから外されていないかを確認します。

同じ名前のBlue Justice Initiativeとは別のもの

「Blue Justice」という名称は、漁業を利用した越境組織犯罪へ対抗する国際的な取り組みにも使われています。

ノルウェー政府が事務局を担うBlue Justice Initiativeは、違法な水産物の流通、人身取引、不正資金など、漁業に関係する国際組織犯罪に対して各国の政府機関が協力するための取り組みです。
2018年のコペンハーゲン宣言をもとに、情報共有、捜査機関の連携、法執行能力の支援などを行っています(Blue Justice Initiative)。

本記事で扱っているのは、海洋開発や保全政策の公正を問う学術的なブルージャスティスです。

同じ名前ですが、成立した経緯、主な対象、活動内容は異なります。

日本ではブルージャスティスがどのように使われているのか

日本では、主に小規模漁業、沿岸地域、漁業政策を考える際にブルージャスティスという言葉が使われています。
東海大学の李銀姫氏は、TBTI Japanの活動を通じて、日本の小規模漁業とブルージャスティスに関する研究と発信を行っています。

李氏は2021年の海洋政策研究所『Ocean Newsletter』で、ブルージャスティスを「ブルーエコノミーの政治経済的・生態学的プロセス」を批判的に検討し、適切な漁業・海洋ガバナンスを求める考え方として紹介しました(李 2021)。

日本では2020年に、漁業の成長産業化を掲げた改正漁業法が施行されました。
漁業を成長する産業へ変える政策が進むなかで、家族経営を中心とする沿岸の小規模漁業が不利にならないか。漁業権や政策を決める場で、その声が認められているかが研究されています。

李氏は、静岡県の稲取キンメ漁業を事例として、日本の小規模漁業へブルージャスティスの視点を取り入れた研究も発表しています(Li 2022)。

近年は、漁港や漁村の地域資源を観光、飲食、体験などに生かす「海業」についても、ブルージャスティスから考える議論が始まっています。
海業によって地域が活性化しても、漁業者や地域の人びとが意思決定や利益から外れてしまえば、地域のための事業とは呼びにくくなります。李氏は2023年の国際漁業学会大会で、「海業の振興とブルージャスティスの視点の重要性」を報告しています(東海大学 2023)。

これからブルージャスティスが必要になる場面は増える

海は、漁業だけに使われる場所ではなくなっています。
洋上風力発電、海洋保護区、海洋観光、養殖、ブルーカーボン、海底資源開発など、同じ海域を複数の事業や政策が利用する場面が増えています。
環境保全や脱炭素を目的とする事業であっても、誰かの生活や権利を自動的に守ってくれるわけではありません。

計画によって利益を得る人と、漁場や生活への負担を受ける人が異なる場合があります。
科学的な調査結果だけでなく、地域で海を利用してきた人びとの経験や知識も必要になります。

海を何に使うのかだけでなく、誰が決め、誰が利益を得て、誰が負担を引き受けるのかを問う場面は、これからさらに増えていくでしょう。

サメの保全でもブルージャスティスが問われる

ブルージャスティスは、海洋開発だけでなく、サメを守る政策を考える際にも使えます。
サメの保全を目的とする政策であっても、決め方や負担の分け方まで自動的に公正になるわけではありません。

サメ漁の禁止や漁獲規制

サメの漁獲を禁止したり、漁獲量を制限したりすれば、サメの死亡を減らせます。
一方、サメを食料や収入源としてきた地域では、規制によって生活へ大きな影響が出る場合があります。

規制を決める話し合いへ漁業者が参加したのか。収入が減る人への支援があるのか。地域によって異なる漁業の実態が反映されているのかが問われます。

サメを守る海洋保護区

サメの繁殖場所や生息地を守るため、禁漁区や海洋保護区が設けられることがあります。
保護区を設ける目的が正しくても、地域の漁業者が長く使ってきた海域を、十分な話し合いなしに閉鎖すれば、負担が一部の人びとへ集中します。
保護区によって観光収入を得る事業者と、漁場を失う漁業者が異なる場合には、利益の配分も問われます。

シャークツーリズム

サメと泳ぐダイビングや観察ツアーは、サメを捕獲せずに地域へ収入を生み出す方法として期待されています。
しかし、ツアーの運営や収入が海外企業や一部の事業者へ集中し、地域住民や漁業者へ戻らなければ、別の不公正が生まれます。
誰が事業を運営するのか。収益を地域へどう戻すのか。サメの行動や生息環境への影響を誰が監視するのかを考える必要があります。

混獲を減らすための対策

漁具の変更、監視機器の導入、漁獲記録の作成など、サメの混獲を減らすための対策には費用と人手がかかります。
その負担を小規模漁業者だけに求めれば、対策を続けることが難しくなります。
漁業者を規制される側として扱うだけでなく、どの方法ならサメを守りながら漁業を続けられるのかを一緒に考える必要があります。

サメを守る政策であっても、地域の生活や知識を無視して進めれば、海の不公正を生むことがあります。

ブルージャスティスは、サメの保全に反対するための考え方ではありません。
サメを守る政策を、現地で実施でき、長く続けられ、地域の人びとにも受け入れられるものにするための視点です。

まとめ|海を守ることと、公正に決めること

ブルージャスティスとは、海洋開発や保全政策による利益と負担、意思決定への参加、地域の文化や知識の扱いに公正があるかを問う考え方です。

配分の公正
誰が利益を得て、誰が損失や危険を引き受けるのか。

手続きの公正
誰が決定へ参加し、その発言が実際に効くのか。

承認の公正
誰の文化、権利、生活、経験、知識が認められるのか。

ブルージャスティスは、海洋開発をすべて止めるための言葉ではありません。海洋保全を否定する言葉でもありません。
海を利用する計画や、海を守る政策を進めるときに、誰かだけが利益を得て、別の誰かだけが負担を負っていないかを確かめるための考え方です。

海洋開発が増え、同じ海を利用する人や事業が増えるほど、海を何に使うかだけでなく、誰とどのように決めるのかが問われます。

にゃぶり
にゃぶり
海を守るって、海の中だけ見れば終わりじゃないにゃ!水面の上で暮らしている人も置いていかないのにゃ!

参考文献一覧

  1. Bennett NJ, Blythe J, White CS, Campero C (2021) Blue growth and blue justice: Ten risks and solutions for the ocean economy. Marine Policy, 125, 104387. https://doi.org/10.1016/j.marpol.2020.104387
  2. Blythe JL, Gill DA, Claudet J, Bennett NJ, Gurney GG, et al. (2023) Blue justice: A review of emerging scholarship and resistance movements. Cambridge Prisms: Coastal Futures, 1, e15. https://doi.org/10.1017/cft.2023.4
  3. Cohen PJ, Allison EH, Andrew NL, Cinner J, Evans LS, et al. (2019) Securing a just space for small-scale fisheries in the blue economy. Frontiers in Marine Science, 6, 171. https://doi.org/10.3389/fmars.2019.00171
  4. Li Y (2022) Adopting a Blue Justice Lens for Japanese Small-Scale Fisheries: Important Insights from the Case of the Inatori Kinme Fishery. In: Jentoft S, Chuenpagdee R, Bugeja Said A, Isaacs M (eds) Blue Justice: Small-Scale Fisheries in a Sustainable Ocean Economy. MARE Publication Series, vol 26. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-89624-9_15
  5. Too Big To Ignore (2018) 3rd World Small-Scale Fisheries Congress. https://toobigtoignore.net/3wsfc/ (accessed 2026-07-19).
  6. Blue Justice Initiative (n.d.) About the Initiative. https://bluejustice.org/about/ (accessed 2026-07-19).
  7. 李銀姫 (2021) 小規模漁業研究のための大規模グローバルパートナーシップ─TBTI. Ocean Newsletter, 509. https://www.spf.org/opri/newsletter/509_3.html (accessed 2026-07-19).
  8. 東海大学 (2023) 静岡キャンパスで国際漁業学会2023年度大会シンポジウムが行われました. https://zerocarbon.sustainability.u-tokai.ac.jp/topics-single.php?i=19 (accessed 2026-07-19).

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シャーク・アクティビストReino

シャーク・アクティビストのReinoです。 サメ専門ブロガー&YouTuberとしてサメの生態や保全についてお伝えしています。 佐賀県唐津市生まれ、東京育ち。 慶應義塾大学文学部卒業。 保有資格は環境社会検定試験(eco検定)、日本さかな検定(ととけん)3級🐟 関心があるのは、哲学、サメの保全、環境倫理学、水産学、SDGs14。 海やサメ以外で好きなのは、橋本涼さん(B&ZAI)。海属性の人が好き。

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