カマストガリザメは一般的にあまりなじみのないサメですが、鉄腕DASHの沖縄ロケで知ったという方も多いのではないでしょうか。
このブログではカマストガリザメの生態や保全状況や人間との関わりについて解説します。
カマストガリザメとは
まず、カマストガリザメの基本情報を紹介します。
基本情報
カマストガリザメ(学名:Carcharhinus limbatus 英語名:Blacktip shark)は、メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)に属するサメです。
- 標準和名
- カマストガリザメ
- 英語名
- Blacktip shark
- 学名
- Carcharhinus limbatus
- 分類
- メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)メジロザメ属(Carcharhinus)
- 命名された年
- 1839年(Müller & Henle)
- 保全状況
- 絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2022年)
- 最大全長
- 286cm
- シャークアタックの回数
- 29件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 1件のサメによる死亡事故(1580-2023年)
- 危険度
- 水族館で会える可能性
- ペットとして飼育できる可能性
カマストガリザメと人間との関わり
カマストガリザメはその生息域全域で漁獲対象種です。
浅い水域を好む沿岸性のサメなので、刺網、はえ縄、定置網、底引き網などで漁獲されています。
地域によっては乱獲が危惧されるようになり、2020年にIUCNレッドリストに追加されました。
IUCNによると、ベネズエラではカマストガリザメの漁獲量がピークになったのち、その後減少していることから乱獲による個体数の減少がはじまっていることが考えられます。
また、西アフリカ沖でカマストガリザメの漁獲量は過去50年間で増加、モーリタニア沖での漁獲量は過去25年間で10倍に増加しているとみられています。
東南アジア全域もカマストガリザメの漁獲圧力(魚の数に対する漁獲の強さ)が高くなっています。
また、カマストガリザメはフロリダ、カリブ海、南アフリカの釣り人に人気があり、国際ゲームフィッシュ協会のゲームフィッシュに指定されています。
1995年以降、アメリカの釣り人によるカマストガリザメの捕獲数は漁業による捕獲数に近づいたか、上回っているとみられています。
保全状況
カマストガリザメは絶滅危惧種?
カマストガリザメは絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)と評価されています。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
カマストガリザメは乱獲されていませんが、世界中で漁獲量が多いことから、2020年にIUCNはカマストガリザメを絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)と評価しています。
おそらく、予防原則で追加したのではないかと思われます。
※予防原則とは今現在危機的な状態にはないが将来的に起こりえる危機を回避するため予防的な対策をとるということ。
絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】
ワシントン条約(CITES)
- ワシントン条約(CITES)
- 附属書Ⅱ(2022年)
2022年11月、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)第19回締約国会議(CITESCoP19)にて、メジロザメ科のサメを附属書Ⅱに一括掲載することが提案され、採択されました。
カマストガリザメは、メジロザメ目メジロザメ科に属するサメなので、今後はワシントン条約によって国際取引を規制されることになります。
規制というと厳しく聞こえてしまうかもしれませんが、取引が透明化されることにより、乱獲や密輸の防止になるという保全へのメリットがあります。
日本はカマストガリザメについて留保する見通しです。
ワシントン条約(CITES / サイテス)のリストに掲載されたサメ類と日本の対応について
カマストガリザメの生態
ここではカマストガリザメの生態について解説します。
見た目の特徴(形態)
- 鼻先が尖っている
- 体の真ん中に白い線が入っている
- ヒレや尾びれの先端が少し黒い
- 中型のサメ
カマストガリザメは中型のがっしりとした体格のサメで、上半身は濃い灰色から茶色、下半身は白色をしています。
第1、第2背びれ、胸びれ、尾びれの下葉が黒く尖っているのが特徴です。
体の真ん中あたりには、白く太い線が入っています。
分布域と生息域
- 分布域
- 世界中の熱帯から温帯の海に広く生息
- 日本国内での分布域
- 高知県、愛媛県、熊本県、宮崎県、鹿児島県などの太平洋側、沖縄県
- 生息域
- 沿岸および沖合の水域。河口、湾、マングローブ湿地、河口付近でもよく見られる
- 水深
- 0〜140m
分布域
カマストガリザメはコスモポリタンなサメです。
西大西洋(カナダのノバスコシアからブラジルまで)、東大西洋(セネガルからコンゴ民主共和国、マデイラ、カナリア諸島、および地中海)、インド太平洋(ペルシャ湾、紅海、マダガスカル、南アフリカから中国、オーストラリア、タヒチ、マルケサス、ハワイまで)、東太平洋(メキシコのバハカリフォルニアからペルーまで、ガラパゴス諸島を含む)。
生息域
カマストガリザメは、水深0~140mの大陸棚や島棚沿岸の表層域に生息しますが、よくいる水深は0~30mです。
河口、湾、マングローブ湿地、河口付近でもよく見られます。
淡水域にはあまり入りません。
沖合のサンゴ礁のドロップオフ(深い海に続く急斜面)付近で見られることもあります。
日本での分布域
カマストガリザメは日本では、高知県、愛媛県、熊本県(有明海の湯島近海)、宮崎県(情報提供:BON@両軸愛者さん)、鹿児島県(内之浦湾、鹿児島湾※1)、沖縄県などに分布しています。
※1 鹿児島大学総合研究博物館『内之浦湾漁港に水揚げされる魚たち』p.27
この写真は、BON@両軸愛者さんのブログに掲載されている宮崎県で釣れたカマストガリザメ。
BON@両軸愛者さんがカマストガリザメからルアーを外していた際に尾ビレでこめかみを叩かれ、尻モチをつき、一瞬意識が飛んだそうです。
怪我はなかったとのことでひと安心。
このあと、カマストガリザメは波打ち際で無事に蘇生して、引き波と共に去って行ったとのこと。
大きさ
- 大きさ
- 平均的な全長は120〜194cm
- 最大全長
- 286cm
- 体重
- 122.8kg
寿命
- 平均寿命
- 13歳。
※サメの年齢を推定するのは難しく、多くのサメが過小評価されている可能性があるので今後さらに長くなる可能性もあります。
- 最大寿命
- 15.5歳
ライフスタイル
- 泳ぐ速度
- - キロ
- 性格
- 臆病な性格
- 習性
- -
- 1日の過ごし方
- -
- 好きな食べ物
- ニシン、イワシ、メンハーデン、ボラ、カタクチイワシなどの小魚
繁殖
- 繁殖方法
- 胎生
- 妊娠期間
- 11〜12ヶ月
- 産仔数
- 4〜11匹
- 幼魚の大きさ
- 53~65cm
- 繁殖サイクル
- 2年ごと
- 成熟年齢
- オス:4~5歳、メス:6~7歳
- 成熟サイズ
- オス:135〜180cm、メス:120〜190cm
カマストガリザメは、お母さんザメのお腹から赤ちゃんザメが生まれてくる胎生のサメです。
妊娠期間は人間と近く11〜12ヶ月、産仔数4〜11匹、幼魚の大きさは53~65cmです。
カマストガリザメの繁殖サイクルは2年ごとの上に産仔数4〜11匹と少ないため乱獲に対して脆弱なサメです。
カマストガリザメとツマグロの違い
カマストガリザメとツマグロの違いについて説明します。
英語名が似てる
英語での名前がBlacktip shark(カマストガリザメ)、Blacktip reef shark(ツマグロ)なので、英語で検索するとカマストガリザメとツマグロの情報が混ざって出てくることがあります。
英語での名称がややこしいカマストガリザメとツマグロですが、見た目は全然違います。
カマストガリザメとツマグロの違いはその特徴である先端が黒い第一背ビレにあります。
まずは、ツマグロ。
こちらがカマストガリザメ。
赤丸で囲んだ部分に注目しましょう。
ツマグロの第一背ビレの先端がべったりと黒いのに対して、カマストガリザメはふちどり程度の黒さです。
そうなのです。
ざっくりというと、カマストガリザメの顔立ちはシャープでかっこいい顔立ち、ツマグロは丸みがあって可愛らしい顔立ちをしています。
カマストガリザメとツマグロの最大全長の差は、おそらく50cm程度ですが、顔立ちや体つきを比較するとカマストガリザメの方が強そうで怖そうに見えます。
カマストガリザメは人食いザメなの?人間への危険性は?
カマストガリザメは人食いザメではありません。
インターナショナルシャークアタックファイル(ISAF)の記録によると、カマストガリザメによるシャークアタックは世界中で29件です。
カマストガリザメによる事故はアメリカ(フロリダ州、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州、バージニア州、アラバマ州)、カリブ海(バハマ、英領ヴァージン諸島)、南アフリカで報告されています。
このうち、カマストガリザメによる致命的なサメ事故は1件のみで、ほとんどの事件は比較的軽傷で済んでいます。
フロリダで発生したサメ事故の約20%はカマストガリザメによるもので、サーファーが襲われることが多いとのこと。
カマストガリザメは一般的には臆病な性格ですが、水深30m程度の浅い場所で餌を探すため、人間と遭遇することが多いです。
そのため、カマストガリザメが泳いでいる人やサーファーの腕や足を獲物と間違えて噛んでしまうようですね。
危険性
- 危険度
- シャークアタックの回数
- 29件のサメ事故(1580-2023年)
- サメの攻撃が原因の死亡事故
- 1件のサメによる死亡事故(1580-2023年)
カマストガリザメのサメ事故
日本では、2021年6月に沖縄県でサメを駆除中のダイバーが、全長約2メートルのカマストガリザメに頭と顔をかまれ負傷するというサメ事故が起きています。
カマストガリザメを水族館で見たい
カマストガリザメを飼育している水族館は少ないようです。
2023年月時点、カマストガリザメを飼育している水族館の一覧はこちら。
- アクアワールド茨城県大洗水族館
- 八景島シーパラダイス
- 美ら海水族館
※最新の飼育情報については各水族館が発信している最新情報や日本動物園水族館協会の公式サイト内の飼育動物検索でカマストガリザメを検索してみてください。
また生きものの状態によっては展示してない場合があるので注意しましょう。
鉄腕DASHとカマストガリザメ
鉄腕DASH『新企画始動!DASH巨大食堂(2021年10月24日)』。
カマストガリザメは漁獲圧の高まりへの予防原則としてIUCNレッドリスト追加、ワシントン条約ではメジロザメの一括としての掲載なので、乱獲せずに再生産能力の範囲内であれば、漁獲して肉やヒレを活用する限りは個体数に影響はなさそうです。
しかしながら、「ゴールデンタイムの人気番組」で「国際自然保護連合IUCNレッドリストで危急種(Vulnerable / VU)と評価されているカマストガリザメを調理してしまうこと」については、どうなのかなぁと感じてしまいます。
確かに今は限定的な地域での乱獲が理由で危急種(Vulnerable / VU)と評価されているので日本には関係ないかもしれませんが「地域によっては乱獲により数が減少しているが、沖縄では最近増えすぎている」などの解説はあってもよかったのではないかと思います。
また、DASH巨大食堂という企画のコンセプトが「1匹で何十人もの人の腹を満たせる巨大魚が近い将来やってくるかもしれない食糧危機の救世主になれる」ということにも疑問を感じました。
繁殖率が低く、成熟するのに時間がかかるカマストガリザメをそのような趣旨の企画で使うことに対しては評価できません。
また、サメに限らず、頂点捕食者の階層にいるような大きな生きものはそもそも個体数が少なく、成長するまでの時間も長くかかります。
大きい生きものを捕まえて料理して多くの胃袋を満たすというのは、ただ番組的におもしろいだけ、であり、食糧危機問題の解決案にはなりません。
いっそ、食糧危機を救う巨大生物みたいな大義名分なしで面白おかしく巨大生物釣りをしてくれた方がマシだったかもと思います。
日本は環境問題や絶滅危惧種への意識が他国と比較して低いので仕方ないのかもしれませんが、好きなテレビ番組なだけに残念でした。
鉄腕DASHは絶滅危惧種を紹介してくれたり、海の再生や農業などいい企画が多いのに、DASH巨大食堂だけは好きになれません。
なお、当初釣る予定だったロウニンアジ(浪人鯵、学名:Caranx ignobilis)は、国際自然保護連合IUCNレッドリストで低懸念(Least Concern / LC)と評価されています。
ロウニンアジはシガテラ中毒の危険性もあるので、釣ったところで果たして食べることはできたのか・・・。
ダッシュ海岸だけではなく、釣り企画にも木村先生がもっと関わってくれたらいいのになと思った鉄腕DASHカマストガリザメ回でした。
鉄腕DASHカマストガリザメ回(2021年10月24日)の見逃し配信はこちら:https://www.hulu.jp/the-tetsuwan-dash
なお近年、沖縄ではカマストガリザメが増加しているそうです。
カマストガリザメは沖縄でサメ事故を起こして負傷者を出していたり、漁業における商業的価値がないことから沖縄の地元の方々には歓迎されていないようです。
サメは漁場を荒らす生き物という声をよく聞きますが、そもそも海はサメたちのもの。
人間はそこに割って入って、海の恵みを享受しているにすぎません。
もちろん、わたしたち人間側の生活もありますが、なんとかうまくサメたちと人間がうまく共存できる道が模索できればいいなと思います。
それこそが、たどり着くべき保全の形ではないのでしょうか。