気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と結論づけました(文部科学省及び気象庁,2022)。
さらに、2023年7月には、世界の平均気温が観測史上最高記録を大幅に更新。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が訪れた」と発言し、警鐘を鳴らしました。
世界の平均気温は産業革命前からすでに1.1℃上昇しており、このままでは2030年代には1.5℃に達する可能性があり、海はより深刻な影響を受けると考えられています。
今回の記事では、地球温暖化がサメたちに与える影響についてわかりやすく解説します。
人間活動が引き起こした地球温暖化が、サメたちの海洋生態系にどのような脅威をもたらしているのか、理解を深めましょう。
地球温暖化とは
まずはじめに地球温暖化とは何かということからおさらいしましょう。
温暖化のメカニズムは?
地球温暖化とは、人間活動によって排出される温室効果ガスが大気中に増加し、地球全体の平均気温が上昇する現象のことです。
まずは以下の図を見てみましょう。
- 地球の表面は太陽からのエネルギーで温められています。
- 温められた熱の一部は大気中の温室効果ガスに吸収されて、地球上に残ります。
- 大気中の温室効果ガスの量が適度なら、地球全体の気温は平均約15℃ほどに保たれます。
もしも地球に温室効果ガスがなかったらマイナス18℃になってしまいます。
そうなのです。
わたしたちが生きていく上で適度な温度が保たれているのは二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスのおかげなんですよ。
ところが、温室効果ガスが増えすぎると、地球全体の気温がどんどん上昇していきます!
この二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスが増えすぎて地球の気温が上昇している状態のことを地球温暖化といいます。
温室効果ガスは二酸化炭素だけではない
温室効果ガスのうちの多くを占めるのが二酸化炭素ですが、温室効果ガスそのものではありません。
- 二酸化炭素は温室効果ガスの一種
- 温室効果ガスは温室効果ガスの総称
確かに、二酸化炭素は温室効果ガスの中でも主要な存在ですが、温室効果ガスそのものではありません。
日本で排出される温室効果ガスの種類と割合
二酸化炭素以外にも、メタン、亜酸化窒素、フロン類など、さまざまな種類の温室効果ガスが存在します。
日本で排出される温室効果ガスの種類と割合の内訳は次のとおりです。
温室効果ガスの種類 | 排出される原因は? | 割合は? |
---|---|---|
二酸化炭素(CO2) | 化石燃料の燃焼、森林減少など | 91.3% |
メタン(CH4) | 畜産、稲作、化石燃料採掘など | 2.6% |
一酸化二窒素(N2O) | 窒素肥料の使用、各種工業活動など | 1.5% |
ハイドロフルオロカーボン類(HFCS) | エアコン、冷蔵・冷凍庫など | 4.1% |
パーフルオロカーボン類(PFCS) | 半導体の製造など | 0.3% |
六フッ化硫黄(SF6) | 半導体の製造など | 0.2% |
三フッ化窒素(NF3) | 半導体の製造など | 0.05%未満 |
(参照:環境省「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について」
温室効果ガスのうちのほとんどを占めるのが二酸化炭素ですが、メタンや一酸化二窒素やフロン類を合わせて温室効果ガスといいます。
地球温暖化対策を考える際には、二酸化炭素だけでなく、さまざまな温室効果ガスの排出削減に取り組むことが重要です。
温室効果ガス排出の原因は?
温室効果ガスのうちの大部分を占める二酸化炭素は、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで発生します。
車を運転したり、ストーブを付けたり、ゴミを燃やしたりすることでも二酸化炭素が発生します。
また、電気を作るためにも多くの燃料を燃やしています。
たとえば、テレビを見て電気を使うだけでも二酸化炭素を排出することにつながっているんです。
温室効果ガスの影響とは
温室効果ガスは世界や日本だけではなく、生きものや海にも深刻な影響を与えています。
地球温暖化がもたらす世界的な影響
1750年以降、人間活動による二酸化炭素排出量の増加により、地球の平均気温は100年間に0.6℃も上昇しているといわれています。
地球温暖化による世界的な影響は多岐にわたります
1.海面上昇
地球温暖化の影響で、北極海や南極の氷が溶け、海面上昇が進行しています。
低地や沿岸地域は水没の危機に直面しており、特に小さな島々では国土消失の脅威が深刻化しています。
2.異常気象
地球温暖化の影響で、異常気象の発生頻度と強度が上昇しています。
洪水、森林火災、ハリケーン、熱波、干ばつなどの被害が各地で深刻化し、人命や財産に甚大な被害を与えています。
3.水資源問題
地球温暖化の影響で、干ばつの頻度と深刻度が増加する可能性があります。
干ばつによる被害は、農業生産の減少、水不足、住民の生活への影響などがあります。
日本における地球温暖化の影響は身近な脅威が多い
地球温暖化の影響は、日本でも深刻化しています。
以下に、近年顕著化している日本における地球温暖化の影響をいくつか挙げます。
1.熱中症の増加
総務省の「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」 によると、2023年の熱中症による救急搬送者数は前年の71,029人と比べると20,438人増加の91,467人となりました。
搬送者のうち、高齢者が最も多く、次いで成人、少年、乳幼児の順となっています。
熱中症は、命に関わることもあるため、十分な対策が必要です。
2.豪雨・土砂災害の増加
ゲリラ豪雨や記録的な大雨の増加など、土砂災害や水害の発生頻度が増加しています。
豪雨・土砂災害は、家屋やインフラの被害だけでなく、多くの犠牲者を出しています。
3.台風が強大化
地球温暖化の影響で、台風の強大化が懸念されています。
台風は、高潮や暴風雨による被害だけでなく、停電や断水などの二次災害も引き起こします。
4.水不足
激しい雨の回数は増加している一方で、年間降水日数は減少傾向にあります。
各地で渇水が発生し、毎年のように取水制限が行われる状況です。
水不足や干ばつは、農業生産への打撃や深刻な経済損失、さらには社会不安まで招きかねません。
地球温暖化の影響による生物多様性の喪失
地球温暖化の影響により、サンゴ礁の白化や海洋生物の分布変化など、海の生態系にさまざまな変化が起こっています。
これらの影響は、生物多様性の喪失につながり、生態系サービスの低下を招き、海の豊かさやわたしたちの暮らしを脅かしています。
1.サンゴの白化現象
地球温暖化の影響で、サンゴの白化現象が世界中で深刻化しています。
サンゴは海の生態系において重要な役割を果たしており、白化現象は海洋生物の多様性を失わせ、海の生態系崩壊の危機を招きかねません。
2023年には、オーストラリアのグレートバリアリーフで、2016年以降8年間で5回目となる大規模なサンゴの白化現象が発生しました。
これは、地球温暖化が海洋生物に与える深刻な影響の象徴的な例です。
2.ホッキョクグマやアザラシなどの生息地喪失
地球温暖化の影響により、北極海の氷が溶け、ホッキョクグマやアザラシなどの海棲哺乳類の生息地が急速に失われています。
これは、これらの動物たちの生存を脅かすだけでなく、食物連鎖全体に影響を与え、生態系のバランスを崩す可能性があります。
3.野生生物の分布が変化
地球温暖化の影響で、多くの野生生物の分布が変化しています。
たとえば、高山性の動物たちは、気温上昇に伴い、より標高の高い場所に移動を余儀なくされています。
また、熱帯性の動物たちは、新たな地域に進出する可能性もあります。
これらの分布変化は、生態系に様々な影響を与え、新たな脅威を生み出す可能性があります。
4.漁獲量の変化
地球温暖化の影響で、日本の海における漁獲量にも変化が見られます。
ブリやサワラの漁獲量は増加している一方、スルメイカの漁獲量は減少しています。
これは、海水温の変化や海洋生物の分布変化などが原因と考えられています。
海の豊かさの変容は、漁業資源の減少や地域経済への影響など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
地球温暖化によるサメへの影響
地球温暖化によるサメへの影響には以下のようなことがあります。
- 貧酸素化でサメの混獲が増える
- サメの分布が変化する
- サンゴ礁で暮らすサメに絶滅の危機
- サメが小型化する
- サメの歯やウロコが溶ける
貧酸素化でサメの混獲が増える
地球温暖化の影響による海洋の貧酸素化(deoxygenation)が、サメの混獲の増加という新たな問題を引き起こす可能性があります。
貧酸素化とは
貧酸素化とは、海洋の広い範囲で溶存酸素量(海水中に溶け込んでいる酸素の量)が減少している現象を指します。
具体的には、海水中における酸素飽和度が約40%以下になった状態のことです(海生研,2009)。
貧酸素化の原因とは
貧酸素化の原因は地球温暖化による海水温の上昇です。
地球温暖化により海水温が上昇すると、海水に溶けることができる酸素の量が減少してしまいます。
そうなのです。
酸素の溶解度は海水温によってほぼ決まるため、海水温が上昇すれば低下してしまいます。
つまり、地球温暖化によって海水温が上昇すると、貧酸素化が進行するということです。
成層の強化も貧酸素化を進行させます。
海面付近の海水温が上昇すると、海水密度が小さくなり、より深い場所にある密度の大きい海水と混ざりにくくなる成層の強化がおきます。
その結果、酸素を豊富に含んだ海面付近の海水が下層に供給されにくくなり、海中の酸素量が減少していきます。
参照:気象庁「海洋内部の知識 貧酸素化」
サメの混獲が増える理由は?
地球温暖化の影響による貧酸素化が進むと、酸素を求めて海面近くを泳ぐ魚が増えると考えられています。
サメも例外ではなく、これまでよりも浅い水深を好む可能性が高くなります。
酸素量は海面付近で最も多くなります。
その理由は、大気と海面との間で酸素の交換が行われるためです。
海面付近では、海水に溶けることができる上限の量付近まで酸素が溶けているため、酸素飽和度(海水に溶け込んでいる酸素の割合)が高くなります。
そのため、海面近くを泳ぐサメが増えることで漁業用の網にかかりやすくなり、混獲されてしまうサメが増えるのではないかと懸念されています。
サメの分布域の変化
地球温暖化の影響で餌となる生きものの分布域が変化すると、サメもそれを追って移動します。
サメはもともと長い距離を回遊する能力をもつため、新たな餌場を求めて分布域を変化させることができるからです。
実際、大西洋と太平洋の米国海域では、地球温暖化の影響による海水温の上昇で多くの魚種が北上していることが確認されています。
たとえば、オナガザメなどは、南カリフォルニア沖でよく見られるサメですが、太平洋沿岸のアラスカ沖で多く見られるようになると予想されています。
参照:NOAA(アメリカ海洋大気庁)The Effects of Climate Change on Sharks
ホホジロザメとの遭遇率が上がる地域も
Natureによると、2014年から2019年にかけて、カリフォルニア州モントレー湾北部に全長2.5mほどのホホジロザメが劇的に増加しました。
その理由は、地球温暖化の影響よる海水温の上昇です。
温暖化の影響による海域移動
ホホジロザメの子どもたちは大人と違い、体温を保持できるだけの十分な大きさがなく、海水温の影響を受けやすいという特徴があります。
そのため、ホホジロザメの子どもたちは温かくて居心地のいいモントレー湾に移動してきたようです。
また、モントレー湾にはホホジロザメの子どもたちの好物であるエイが多く生息していることも移動してきた理由のようです。
ホホジロザメの子どもたちの危険性は?
ホホジロザメの赤ちゃんは全長1.5m、子どもは全長1.8m〜2.7mです。
一般的なイメージほどサメたちは人間に興味を示すことはありませんが、遭遇率が増えるということは少し心配です。
インターナショナルシャークアタックファイルによると、1.8m以上の大きさのサメのほとんどは人間にとって潜在的な脅威があるとみなした方がいいとのこと。
その理由は人食いザメだからということではなく、ただ噛み付いただけだとしても、サメの顎の力と鋭い歯は大けがにつながる可能性が高いからです。
そのため、ホホジロザメの子どもが好奇心で噛み付いてきたとしても人間は大怪我をする可能性があるかもしれません。
サンゴ礁で暮らすサメに絶滅の危機
地球温暖化による海水温の上昇がサンゴ礁を形成する造礁サンゴの白化を引き起こしているという話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
国立研究開発法人 国立環境研究所によると、サンゴの白化とは次のようにして起こります。
サンゴ自体は動物ですが、褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる藻類(そうるい)を体内に共生させ、その光合成生産物に依存して生きています。サンゴの白化は、環境ストレスにより褐虫藻の光合成系が損傷され、サンゴが褐虫藻を放出することにより起こります。このとき、サンゴの白い骨格が透けて見え、白くなるため白化と呼ばれます。環境が回復すれば褐虫藻を再び獲得してサンゴは健全な状態に戻りますが、環境が回復せず白化が長く続くとサンゴは死んでしまいます
はい、関係あります。
サンゴ礁やその周辺海域には世界の海に生息する50万種の生きものうち25%程度が生息していると考えられています。
そのため、海水温の上昇やpHの変化によるストレスでサンゴが白化して死んでしまうと、魚たちは住みかや産卵場所、稚魚たちが育つ場所を失ってしまうのです。
サンゴ礁で暮らす魚たちがいなくなると、サメも餌を食べることができなくなってしまいます。
つまり、サンゴの白化はサンゴだけの問題ではありません。
サンゴ礁とその生態系が危険にさらされてしまうということなのです。
そのため、サンゴ礁で暮らすサメたちにも絶滅の危険があるかもしれません。
サメが小型化する
地球の温暖化によって海水温が上昇し、酸素不足になることで成長が阻害されてしまいサメが小型化する可能性があります。
科学誌Nature(ネイチャー)によると、2050年までに魚の全長や体重が14~24%減少する可能性があるとのことです。
海水温の上昇による酸素不足はサメだけではなく海で暮らす魚たちにとっても大きな問題といえるでしょう。
サメの小型化については『海水温の上昇や乱獲の影響による魚やサメの小型化についてわかりやすく解説』で解説しています。
サメの歯やウロコが溶ける
大気中の二酸化炭素濃度が上昇したことで海洋酸性化が世界規模で進行しています。
この海洋酸性化が進むことで、サメの歯やウロコが溶けてしまうことや海洋の生態系に大きな影響を与えることが懸念されています。
海洋酸性化については『海洋酸性化とは?仕組み、原因、サメへの影響、対策をわかりやすく解説』で解説しています。
まとめ:海やサメを守ることは、私たち自身の未来を守ること
地球温暖化の影響は、陸にとどまらず、海の生態系にも深刻な爪痕を残しています。
サメも例外ではなく、貧酸素化による混獲増加、分布域の変化、サンゴ礁の白化による生息地の喪失、小型化、歯やウロコの溶解など、さまざまな問題に直面していますが、目に見えない海の中で起こっているため、わたしたちには実感しにくいのが現状です。
しかしながら、わたしたちの生活を脅かす巨大台風、記録的な豪雨、猛暑などの異常気象もまた海水温が上昇が原因なのを忘れてはいけません。
地球上のありとあらゆるものは何らかの形で連鎖しています。
海を守ることは、私たち自身の未来を守ることにつながります。
節電、節水、ゴミ削減など、小さなことからはじめてみましょう。
無理せずできる身近なことを積み重ねていけば、持続可能な未来を築くことができるのです。
海を守り、サメを守り、そして地球を守るのは、わたしたち一人ひとりの責任です。
今、行動を始めましょう!
参考文献・資料一覧
(2)気象庁『貧酸素化』
(3)Tanaka, K. R., Van Houtan, K. S., Mailander, E., Dias, B. S., Galginaitis, C., O’Sullivan, J., Lowe, C. G., & Jorgensen, S. J. (2021). North Pacific warming shifts the juvenile range of a marine apex predator. Scientific Reports
(4)NOAA Fisheries. (2022). The Effects of Climate Change on Sharks.
(5)地球環境研究センター『ココが知りたい地球温暖化』、2013年。