「サメって、頭がいいの?」
「サメの知能は高いの?」
このテーマは、サメの行動や脳の研究から少しずつ解明されつつあります。
サメやエイなどの軟骨魚類は、魚類のなかでもとくに大きな脳を持っていることで知られています。
実際、サメやエイの脳化指数(脳の重さと体の重さの比)は硬骨魚類や爬虫類の上位にあたり、一部の種は鳥類や哺乳類の下限域に達します(Yopak 2012)。
また、脳の各部分が全体の大きさに応じて変化する仕組みは、サメと哺乳類で共通していることも報告されています(Yopak et al. 2010)。
さらにサメは、記憶・学習・社会性など、ある程度の認知能力を持つとされ、経験から学んだり、仲間や他の海洋動物とコミュニケーションをとれると考えられています。
サメも種によっては社会性があり、群れで生活し、狩りをします。
また、ホホジロザメのような一部の種では、ボディランゲージでのコミュニケーションも研究されています。
今回のブログでは、「サメは頭がいいのか?」「サメの知能はどれほどか?」を科学の視点で解説します。
サメの知能は高い?
ドイツ・ボン大学のTheodora FussさんとVera Schluesselさんは、学術誌『Animal Cognition』で、グレイバンブーシャーク(Chiloscyllium griseum)が一度学んだ内容をおよそ1年おぼえていたと報告しました(Fuss & Schluessel 2015)。
この結果は、複数の認知実験を組み合わせて確かめられたものです。
研究を紹介したSmithsonian Magazineの記事では、この記憶力が、長く記憶を保つことで知られるカラスや一部の霊長類に並ぶものだと説明されています(参考記事)。
この実験ではサメを水槽に入れ、画像を映し出しました。
- 三角形は餌
- 四角形は餌ではない
これを識別して鼻先を接触させるということを教えたところ、どちらが餌なのかをサメは覚えたそうです。
また、カニッツァの三角形(Kanizsa triangle)と呼ばれる錯視図形(目の錯覚を利用した図形)を投影しても、サメは正しい図形を識別できることが多いことがわかりました。

さらに、目の錯覚を利用した線の長さの違いを識別させる実験でも、サメの知能が高い可能性があることがわかったそうです。
この知能実験の最後に、研究チームは、グレイバンブーシャークが最初の実験で学んだことをまだ覚えているかどうかをテストしました。
すると、餌の報酬を与えない状態でも、最長50週間後まで、ほとんどすべてのサメがどの形を選ぶべきかを覚えていました(Fuss & Schluessel 2015)。
また、捕獲されたサメに対して行われた実験によると、サメには学習能力があり、ネズミのような哺乳類と同じレベルで行動様式を変えることがわかりました。
水族館での実験では、ニシレモンザメやコモリザメは学習能力が高く、しかもすぐに学習をすることが明らかになった。
訓練を10回しなくても、彼らは特定の音や動きとエサを関連づけられるようになる。
特定の場所や特定の人物から、食べ物を受け取ることを覚える。
そしてネズミと同じくらいの速さで、単純な迷路を泳ぎ出ることができる。引用:スティーブ・パーカー (著), 仲谷 一宏 (監修)『世界サメ図鑑』ネコパブリッシング、2010年。
このように視覚的手がかり餌を判別する能力を持つということは、過酷な生存競争が繰り広げられる海で生き残れる可能性を高めることにつながっていくということですね。
サメの学習能力
サメの学習能力について解説します。
『シャーク~海洋の覇者~』によると、ジンベエザメに漁を邪魔されることを悩んだ漁師がジンベエザメに餌をあげてみたそうです。
餌をあげることでジンベエザメは漁師の網から魚を吸い出すことをやめ、網を破られることがなくなったそう。
おどろくべきことに、はじめは数匹だったジンベエザメは年を追うごとに増えていったとか。
サメの社会的地位
次に、サメの社会的地位について解説します。
体の大きさの認識
サメは同種・他種の中で自分の社会的地位を認識できると考えられています。
同種のサメの中での序列は大きさに基づいていると推定されています。
実際に、餌となるオットセイを咥えたホホジロザメが、自分より大きなホホジロザメに横取りされる場面が観察されています。
また、『シャーク~海洋の覇者~』によると、ホホジロザメには個性があることもわかっているそうです。
ダイバーに対しても他のサメに対しても体が大きいほど強気なことが多いとか。
つまり、サメは自分の体格を認識し、他のサメの体格と比較する能力に長けていると推測されます。
ボディーランゲージ
たとえば、わたしたち人間の世界でもライオンなどの動物の世界でも、そこに集団があれば力をはじめとしたさまざまな要素による序列がありますよね。
同じようにサメの世界にも序列があるのです。
『世界サメ図鑑』によると、大きな群れをつくるサメは、ときに口を開けて群れの仲間にぶつかったりします。
ただし、これは本気の攻撃ではなく、群れの中で序列を決める行為だと考えられているそうです。
ホホジロザメの会話
次に、「ホホジロザメの会話」について解説します。
ホホジロザメは知的で好奇心の強い生物なのではないかという見方もあります。
それは、ホホジロザメが集まると、口をあけて見つめ合ったり、体をぶつけ合ったりと、さまざまな行動をするからというのが理由のようです(参考記事)。
『美しき捕食者 サメ図鑑』(田中 2016)によると、ホホジロザメ特有の威嚇行動として
- 攻撃に移る前ににっこりと笑ったように歯をむき出しにする
- 標的に向かって突進して、ギリギリのところで進路を変える
などがあるそうです。
また、ホホジロザメが何匹も集まるような場所では、互いに快適な距離を大切にしているような動きも観察されています。
たとえば、まっすぐ向かい合って近づいてきたときに、互いに向きを変えることで敵ではないよということを示しているのだとか(参考動画:シャーク~海洋の覇者~)。
わたしたちも道を歩いているときにぶつからないようにそっと避けたりしますよね。
もし勢いよくぶつかられるなんてことがあったら、とても嫌な気分になってしまいます。
ホホジロザメも体の動きでコミュニケーションをとり、平和を保っているとみられているのです。
つまり、ボディーランゲージはホホジロザメにとっての会話のようなものなんですね。
このホホジロザメの会話は微妙な合図で成り立っているため、まだほとんど解読されていないそうですが、今後の研究成果が楽しみです。
その後の研究でわかったこと(2026年7月追記)
この記事は2021年に公開したものです。以下は、公開後に確認した研究を追記した部分です。
記事の前半で紹介した記憶実験は、グレイバンブーシャークを使った一連の研究の一部です。同じボン大学のチームは、その後も別の課題でこのサメを調べています。
サメも「錯視」を見る
Theodora Fussさんたちは、グレイバンブーシャークがカニッツァの三角形のような、実際には描かれていない輪郭を見分けられることを確かめました(Fuss et al. 2014)。
人間が錯視を感じるときと同じように、サメの脳も欠けた情報を補っていることになります。
「魚」と「巻貝」を分けて覚える
Vera SchluesselさんとDennis Duengenさんは、グレイバンブーシャークに「魚」と「巻貝」の絵を見分ける訓練をしました(Schluessel & Duengen 2015)。
サメは、白黒の線画、写真、マンガ風の絵、色を反転させた画像のいずれでも、二つのグループを分けられました。
形や色が変わっても「魚は魚」として扱えたことになります。
音の高さを聞き分ける
Tamar Poppelierさんたちは、7匹の若いグレイバンブーシャークに、音を聞いたら動く・聞こえなければ動かない、という課題をさせました(Poppelier et al. 2022)。
その結果、90〜210Hzの範囲では、20〜30Hzの違いがあれば二つの音を区別できました。
ただし研究チームは、対象が7匹と少ないため、統計の結果は慎重に読む必要があると書き添えています。
サメの認知研究のまとめ
Culum BrownさんとVera Schluesselさんは、2023年に軟骨魚類の認知研究をまとめた総説を発表しました(Brown & Schluessel 2023)。
空間の記憶、物の見分け、数の区別、社会的な学習など、これまでに調べられた内容が整理されています。
サメの知能を扱った研究は、2021年にこの記事を書いた時点よりも増えています。
参考文献一覧
- Brown, C. & Schluessel, V. (2023) Smart sharks: a review of chondrichthyan cognition. Animal Cognition, 26, 175–188. https://doi.org/10.1007/s10071-022-01708-3
- Fuss, T. & Schluessel, V. (2015) Something worth remembering: visual discrimination in sharks. Animal Cognition, 18(2), 463–471. https://doi.org/10.1007/s10071-014-0815-3
- Fuss, T., Bleckmann, H. & Schluessel, V. (2014) The brain creates illusions not just for us: sharks (Chiloscyllium griseum) can 'see the magic' as well. Frontiers in Neural Circuits, 8, 24. https://doi.org/10.3389/fncir.2014.00024
- Poppelier, T., Bonsberger, J., Berkhout, B.W., Pollmanns, R. & Schluessel, V. (2022) Acoustic discrimination in the grey bamboo shark Chiloscyllium griseum. Scientific Reports, 12, 6520. https://doi.org/10.1038/s41598-022-10257-1
- Schluessel, V. & Duengen, D. (2015) Irrespective of size, scales, color or body shape, all fish are just fish: object categorization in the gray bamboo shark Chiloscyllium griseum. Animal Cognition, 18(2), 497–507. https://doi.org/10.1007/s10071-014-0818-0
- Yopak, K.E. (2012) Neuroecology of cartilaginous fishes: the functional implications of brain scaling. Journal of Fish Biology, 80(5), 1968–2023. https://doi.org/10.1111/j.1095-8649.2012.03254.x
- Yopak, K.E., Lisney, T.J., Darlington, R.B., Collin, S.P., Montgomery, J.C. & Finlay, B.L. (2010) A conserved pattern of brain scaling from sharks to primates. PNAS, 107(29), 12946–12951. https://doi.org/10.1073/pnas.1002195107
- Clark, L. (2015) Sharks Have Scary-Good Memories. Smithsonian Magazine. https://www.smithsonianmag.com/smart-news/sharks-have-scary-good-memories-180954421/ (accessed 2026-07-20).
- スティーブ・パーカー(著), 仲谷一宏(監修)(2010)『世界サメ図鑑』ネコ・パブリッシング.
- 田中彰(監修)(2016)『美しき捕食者 サメ図鑑』実業之日本社, 160pp.


