2021年、学術誌『Science』に掲載された研究によって、翼のような胸ビレをもつ奇妙な古代サメの化石が白亜紀の地層から発見されたと報告されました。
その名は、
アクイロラムナ・ミラルカエ(Aquilolamna milarcae)。
通称「ワシザメ(Eagle Shark)」です。
本記事では、論文情報をもとに、この古代サメの特徴と進化的な意味を解説します。
アクイロラムナ・ミラルカエ(ワシザメ)とは
アクイロラムナ・ミラルカエは、約9300万年前(白亜紀後期・チューロニアン)に生息していた絶滅したサメです。
2021年に以下の論文で正式に記載されました。
Manta-like planktivorous sharks in Late Cretaceous oceans.
Science, 371(6535), 1253–1256.
DOI: 10.1126/science.abc1490
アクイロラムナ・ミラルカエ(ワシザメ)の基本情報
まず、アクイロラムナ・ミラルカエ(ワシザメ)の基本情報を紹介します。
- 標準和名
- アクイロラムナ・ミラルカ(学名を日本語読み、正式な標準和名は未定)
- 別名
- ワシザメ、イーグルシャーク
- 英語名
- Eagle shark(通称)
- 学名
- Aquilolamna Milarcae
- 保全状況
- 絶滅
- 分類
- ネズミザメ目(Lamniformes)※暫定的分類
- 危険度
- 分布
- メキシコ・バジェシージョ(Vallecillo)
- 好きな食べ物
- プランクトン
- 生息年代
- 約9300万年前(白亜紀後期)
- 命名された年
- 2012年、メキシコのヌエボレオン州のバジェシージョにいる未知の採石労働者によって。2021年に研究チームが論文を発表。
- 巨大ザメ指数
※最大全長が5m以上のサメを星5と評価
※2012年に化石が発見され、2021年に論文化。
アクイロラムナ・ミラルカエ(ワシザメ)の特徴とは
アクイロラムナ最大の特徴は、長く細い胸ビレです。
体長1.65mに対して、ヒレ幅は1.9m。
つまり、体長よりヒレ幅のほうが長いという異例の体型でした。
この体型は、現生のマンタやトビエイ類を思わせます。
研究者はこのサメを「水中を滑空するグライダーのようだった」と表現しています。
速く泳いで獲物を追うタイプではなく、ゆっくりと外洋を漂いながらプランクトンをろ過していた可能性が高いと考えられています。
プランクトン食だった証拠
- 大きな頭部
- 幅広い口
- 歯が確認されない(極小または未発達の可能性)
これらの特徴は、ジンベエザメ・ウバザメ・メガマウスのような現生のプランクトン食サメと共通しています。

ここで重要なのは、
- マンタ類が出現するより3000万年以上前に
- 「翼型ろ過摂食サメ」が存在していた
という点です。
進化的な意味
これまで、白亜紀の大型プランクトン食魚として知られていたのは、パキコルムス類(大型硬骨魚)だけでした。
しかし今回の発見で、プランクトン食という生態は異なるグループで独立に進化していたことが示されました。
翼状の胸ビレも、
- アクイロラムナ・ミラルカエ(サメ)
- マンタ・トビエイ類(エイ)
で収斂進化した可能性が高いと考えられています。
※系統的に異なる生物が、似た環境に適応することで類似した姿になる現象
つまり、サメは「形を変えなかった古い魚」ではなく、過去に大胆な形態変化をすることもあった系統だったということになります。
ヨゴレとの比較について
胸ビレが長いサメとしてヨゴレ(Carcharhinus longimanus)が知られています。
ただし、ヨゴレの胸ビレは体長の約25%程度であり、アクイロラムナ・ミラルカエのように体長を超える幅はありません。
ヨゴレと直接比較するよりも、現生のマンタ類に近い姿だったと考えるほうが妥当です。
まるで白亜紀のタイムカプセル「バジェシージョ」
アクイロラムナ・ミラルカエの化石が発見されたのは、メキシコ北東部のバジェシージョ地域です。
この地域は、古生物学界では「ラガーシュテッテ(化石の保存状態が極めて良好な堆積層)」として知られています。約9300万年前(白亜紀後期)、この場所は酸素の少ない静かな外洋の海底でした。
そのため、死骸が分解されたり他の動物に荒らされたりすることなく、アンモナイトや硬骨魚、さらには巨大な海洋爬虫類までもが「そのままの形」でタイムカプセルのように保存されています。
このことから、アクイロラムナ・ミラルカエは、外洋(遠洋性)で生活していたと推定されています。
折り紙でアクイロラムナ・ミラルカエ(ワシザメ)を作ってみよう!

まとめ
アクイロラムナ・ミラルカエは、
- 翼のような胸ビレ
- プランクトン食
- 白亜紀後期の外洋サメ
という特徴をもつ、非常にユニークな絶滅種です。
この発見は、
「サメは昔から同じ姿だった」というイメージを更新する重要な証拠となりました。
進化は一直線ではなく、多くの変化の上に現在の形がある。
アクイロラムナ・ミラルカエは、その失われた実験のひとつなのかもしれません。

