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サメを学ぶ

ホホジロザメやサメの仲間がひっくり返ると気絶する理由は?

2023年12月9日

ホホジロザメやサメの仲間がひっくり返ると気絶する理由は?

サメはなぜひっくり返ると動かなくなるのでしょうか。
その正体は擬死状態(トニック・イモビリティ/ Tonic Immobility)。
シャチによる捕食とも深く関係する反応です。
今回のブログでは、擬死状態(トニック・イモビリティ)の仕組みや起こる場面、研究利用、ホホジロザメとシャチとの関係まで、科学的に解説します。

ホホジロザメがひっくり返るとどうなる?

ホホジロザメがひっくり返ると擬死状態(ぎしじょうたい / Tonic Immobility)という硬直不動状態になります(Shark Trust, 2025)。
この擬死状態というのは、簡単にいうと「死んだふり」のことです。ホホジロザメ以外のサメやエイなどの軟骨魚類、鳥類、哺乳類、魚類など、多くの動物が擬死を使います(White Shark Divers, 2025)。

ロレンチーニ器官でも気絶

擬死状態は、サメを単にひっくり返すだけではなく、鼻先にある感覚孔(ロレンチーニ器官)を刺激することでも誘発できます(Shark Trust, 2025)。特にホホジロザメの場合、鼻先をこすったり触れたりすることで、この状態が引き起こされることが観察されています(Páez et al., 2023)。
ロレンチーニ器官はサメの弱点としてよく知られていますね。

どんなときにサメをひっくり返す?

研究者が生きたサメを調査したりタグを装着したりする際、ひっくり返すことで擬死状態にすることがあります(Páez et al., 2023)。サメ好きな人ならドキュメント番組で見たことがあるかもしれませんね。
野生、飼育下、実験室を問わず、サメをこの状態にすることで暴れるのを最小限に抑え、研究者とサメの双方が怪我をする可能性を減らすことができます(White Shark Divers, 2025)。

また、擬死状態はサメの体に突然強い圧力がかかることで誘発されるとも考えられていて、漁師や研究者に捕まったとき、あるいは他の捕食者に襲われたときに防御戦略としても機能します(Páez et al., 2023)。実際に、シャチがホホジロザメやアカエイをひっくり返して無力化し、窒息させて捕食する「狩りのテクニック」として利用している証拠もあります(Shark Trust, 2025)。

サメをひっくり返したときの流れ

サメをひっくり返すと、方向感覚を失うことで擬死状態に陥ると考えられています(Shark Trust, 2025)。この状態に入るまでの時間は通常1分以内です(Shark Trust, 2025)。擬死状態になると、サメの筋肉は弛緩し、呼吸と心拍数が減少することが特徴です。ひっくり返した状態から解放されると、サメは元に戻ります。

この擬死状態は最大15分間保つことができます(Shark Bookings, 2014)。OCEARCHのホホジロザメのタグ付けや検査も10分以内を目標にしていましたね。※ABCニュースの報道によると、OCEARCHの科学者チームがホホジロザメを捕獲し、検査やタグ付けを行って放流するまでに自分たちに課した最大限の時間は「15分」とされています(ABC News, 2013)。
サメを長時間この状態に置くことは、生理学的に大きなストレスとなり、リスクを伴うことが知られています(Brooks et al., 2011)。サメを釣ったときなどに面白半分で試すのはやめてください。

サメをひっくり返したときに気絶するのは何のため

サメをひっくり返したときに気絶するのは何のためなのでしょうか。サメが擬死状態になることで得られるメリットは思いつきませんよね。小さな生きものの場合は擬死状態になることは、捕食者を欺いて逃げ去る機会を得るための防衛戦略のひとつと考えられています(Stéphan G. Reebs, 2007)。ところが、頂点捕食者(トッププレデター)で天敵はあまりいない種類のサメにとっても同様の現象が見られるため、そのメリットについてはまだ解明されていない点が多くあります(White Shark Divers, 2025; Shark Trust, 2025)

交尾のために気絶する?

サメが擬死状態になることは交尾行動に関連しているのではないかと指摘する科学者もいます(Shark Trust, 2025)。どうやら、交尾中のオスの噛みつき行動と関連している可能性があるようですね。
サメの交尾はオスがメスに噛みつきます。オスがメスの胸ビレや尾部に噛みついて拘束することは、擬死状態を誘発している可能性があります。こうすることで、オスは交尾の体勢を整えることができますし、交尾中にメスが暴れてオスが怪我をするリスクも減ります(Williamson et al., 2018; Páez et al., 2023)。

コモリザメの求愛と交尾を観察した結果、擬死状態は交尾中の一般的な行動であることが判明しました。コモリザメのオスはメスの胸ビレや体に噛みつき、擬死状態を誘発してから交尾の体勢をとるそうです。この行動は、トラフザメやドチザメの仲間など、他の種類のサメでも観察されています。
わたしも水族館でマモンツキテンジクザメの交尾をみたことがあるんですが、メスが交尾の途中でクタッとして動かなくなったのですが、終わったあとは何事もなかったかのように泳いでいました 笑

どんなサメがひっくり返されると気絶する?

ホホジロザメ、イタチザメ、ヨシキリザメ、ツマグロ、ドチザメ、ネムリブカなど、さまざまな種類のサメが擬死状態になることが研究で明らかにされています(Stéphan G. Reebs, 2007)。この現象はサメの大きさに限らず、脳の構造が鳥類や哺乳類に近いとされる板鰓類全般に見られる複雑な行動の一つと考えられています(Páez et al., 2023)。
擬死状態の持続時間は、サメの種類や誘発される状況によって異なります(Páez et al., 2023)。たとえば、レモンザメをひっくり返したときと捕まえたときに擬死状態になった場合は、捕まえたときに擬死状態になったときの方が持続時間が長いそうです(Páez et al., 2023)。

シャチはホホジロザメをひっくり返して気絶させる

研究者がサメをひっくり返して気絶させるのは、個体を傷つけずに保定し、電子タグの装着や身体検査などの研究を安全に行うためです(Chris, 2014)。 ところが、海の世界ではそうはいきません。

シャチがホホジロザメをひっくり返す

シャチは捕食のための狩猟テクニックとして、ホホジロザメをひっくり返して気絶に陥らせることがあります(参考記事:「ホホジロザメ vs シャチはどっちが強い?大きい?」)。
1997年、カリフォルニア州北部および中部の沖合のファラロン諸島でシャチがホホジロザメを15分間も逆さまにしているのが目撃されました。これが意図的かどうかは不明ですが、シャチによって擬死状態にさせられたホホジロザメは身動きが取れず、窒息死してしまったと報告されています。同様のことが2000年にも起きています(White Shark Divers, 2025; Shark Trust, 2025)。
ホホジロザメがシャチに攻撃されたときに最後の手段として擬死状態に入ることもあるそうですが、シャチの前では効果はなさそうですよね。

ホホジロザメはひっくり返されるとどうなる

ホホジロザメの場合、背びれが真っ直ぐになり、呼吸が遅くなり、筋肉が緩みます(Shark Bookings, 2014)。こうなってしまっては頂点捕食者のホホジロザメといえどもどうしようにもありません。

シャチはエイもひっくり返す

また、ニュージーランドでは、シャチがエイを狩るときにもひっくり返して麻痺させていることが知られています(Shark Trust, 2025)。エイを攻撃する前にシャチは体を逆さまにして、エイを口にくわえたまま、素早く体を起こします。そうなると、エイはひっくり返ってしまいますね。
それを応用してサメをひっくり返すようになったのかは定かではありませんが、シャチが極めて賢く、ホホジロザメにとって怖い生き物というのは確かです。

まとめ

擬死状態がなぜサメにとって有用なのかはまだ完全には解明されていません。しかし、「防御戦略」としての側面や、「交尾の儀式においてメスをおとなしくさせるための役割」に関連しているのではないかという仮説がありますが、確かなことはわかっていません。
わたしの個人的な考えだと交尾がうまくいくように擬死状態になるのではないかと思います。実際にサメの交尾を見たことがあるのでなおさらそう考えてしまいます。
皆さんはどう思いますか?

参考文献・リソース

本記事の執筆にあたっては、以下の学術論文および専門資料(2025年時点の最新情報を含む)を精査・参照しています。

  1. Shark Trust (2025) "Tonic Immobility"
    [https://www.sharktrust.org/tonic-immobility]
  2. Páez, A. M., et al. (2023). "Tonic immobility in elasmobranchs: a review." Environmental Biology of Fishes.
    doi: 10.1007/s10641-023-01413-1
  3. Brooks, E. J., et al. (2011). "Physiological consequences of tonic immobility and head-on-tail restraint in carcharhinid sharks." Journal of Experimental Marine Biology and Ecology.
    doi: 10.1016/j.jembe.2011.09.017
  4. Williamson, J. E., et al. (2018). "Evidence for male-induced tonic immobility as a mating strategy in sharks." Environmental Biology of Fishes.
    doi: 10.1007/s10641-018-0734-2
  5. Stéphan G. Reebs (2007). "Feigning death in fish." How Fish Behave.
    [参照元:http://www.howfishbehave.ca/ ※学術的慣行に基づき書誌情報として記載]
  6. ABC News (2013) "Tracking Great White Sharks: GPS Tagging Reveals Swim Patterns."
    [https://abcnews.go.com/Technology/tracking-great-white-sharks-gps-tagging-reveals-swim-patterns/story?id=18548987]
  7. White Shark Divers (2025) 「Tonic Immobility in Sharks: Catatonic State」 2025年12月30日閲覧
  8. White Shark Divers (2021) 「Tonic Immobility in Sharks」 2025年12月30日閲覧
  9. Shark Bookings (2014) 「Tonic Immobility in Sharks」 2025年12月30日閲覧

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シャーク・アクティビストReinoとにゃぶり

シャーク・アクティビストReino

シャーク・アクティビストのReinoです。 サメ専門ブロガー&YouTuberとしてサメの生態や保全についてお伝えしています。 佐賀県唐津市生まれ、東京育ち。 慶應義塾大学文学部卒業。 保有資格は環境社会検定試験(eco検定)、日本さかな検定(ととけん)3級🐟 関心があるのは、哲学、サメの保全、環境倫理学、水産学、SDGs14。 海やサメ以外で好きなのは、橋本涼さん(B&ZAI)。海属性の人が好き。

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