乱獲(overfishing)とは、魚や野生動物を再生産速度を超えて過剰に捕獲し、個体数の持続的な維持を不可能にする行為です。2026年現在、世界の魚類資源の35.5%が過剰漁獲状態にあり(FAO, 2025)、この50年間で乱獲状態の資源数は3倍に増加しました。サメをはじめとする多くの海洋生物が絶滅の危機に瀕しており、食料安全保障や海の生態系、そして沿岸漁業で生きる人々の暮らしにまで深刻な影響を与えています。この記事では、乱獲の意味・原因・問題点から、MSYやTACといった具体的な解決策まで、科学的根拠をもとにわかりやすく解説します。
乱獲とは

乱獲の読み方は「らんかく」です。
魚を乱獲することを英語では“overfishing”といいます。
科学的には、資源が持続可能な最大量(最大持続生産量:MSY)を維持できる速度を超えて採捕される「状態」や「割合」を指します(NOAA, 2020)。
乱獲が加速した背景には、ソナーやGPSなどの漁業技術の進歩による漁獲効率の向上や、世界的な海産物需要の高まり、そして不適切な漁業管理などが挙げられます
乱獲の意味をわかりやすく
乱獲とは、魚・鳥・野生動物などの生きものを過剰に捕獲することです。希少な野生植物や、人間が使用するものの原料となる植物の過剰な伐採なども含まれます。
動植物を過剰に捕獲・伐採すると、次世代の資源が増加する速度(再生産速度)を超えてしまい、個体数の維持が難しくなります。その結果、次世代の個体数が徐々に減少し、やがては絶滅に至ることもあります。乱獲は世界的な問題であり、魚の個体数の減少や海の生態系にも深刻な害を及ぼしています。
資源の減少
世界の評価対象となっている魚類資源のうち、35.5%が乱獲状態(過剰漁獲)にあると報告されています(FAO, 2025)。
この50年間で、過剰漁獲されている資源の数は3倍に増加しました(Sedyaaw et al. 2025)。
生態系への害
乱獲は対象となる種を減らすだけでなく、混獲(bycatch)によってウミガメやサメ、海鳥などの非対象種を死滅させたり、底引き網などでサンゴ礁などの生息地を破壊したりすることで、海の生態系全体のバランスを損なっています(Batool et al. 2025)。
社会経済への影響
資源の減少は、海産物を食料(タンパク源)とする何十億もの人々や、漁業で生計を立てる何百万もの人々の生活を脅かしています。
乱獲により個体数が減っている動植物や魚類の例
| 個体数が減っている動植物や魚類 | 分類 | 問題 | 原因 |
|---|---|---|---|
| サメ類 | 軟骨魚類 | 554種のうち約3割の137種が絶滅危惧種 | フカヒレを目的とした乱獲、密漁 |
| コツメカワウソ(Aonyx cinerea) | 哺乳類 | 絶滅危惧種(危急種 / VU) | 毛皮目的の乱獲、ペットとして日本などへ輸出するための乱獲 |
| ローズウッド(Dalbergia nigra) | 植物 | 絶滅危惧種(危急種 / VU) | 高級家具や楽器や化粧品の原料のために乱獲 |
乱獲の問題
乱獲の問題点は、魚を獲りすぎてしまった(=過剰な漁獲圧)せいで、将来手に入るはずの食料や富を失ってしまうことです。
つまり、乱獲は持続的な漁業ではないということです。
| 乱獲の種類 | 問題 | 原因 |
|---|---|---|
| 生産乱獲(yield overfishing) | 個体数の減少 | 極端な乱獲状態が継続することで個体数が減少し続けて、やがて絶滅してしまうこと。 |
| 経済乱獲(economic overfishing) | 経済的な損失 | 過剰な漁獲圧のせいで得られたはずの経済的利益を失ってしまうこと。 |
乱獲はなんのため?デメリットは?

乱獲は短期間であれば漁獲量を増やすことができるので、漁業関係者に経済的利益をもたらします。
ところが、乱獲により漁獲量が増えるのは一時的なものであり、一定量を採り尽くすと今度は魚がいなくなってしまいます。
ある種の魚がいなくなることで、その海域の生態系のバランスが崩れてしまったり、その魚を捕食していた大型魚の個体数が減ってしまうこともあります。
また、乱獲による経済的損失は、漁業関係者だけでなく、地域経済全体にも及びます。漁獲量の減少は、漁業関連産業の衰退を招き、雇用機会の喪失や地域経済の停滞を引き起こします。
つまり、長期的にみると乱獲にはデメリットしかないのです。
なぜ乱獲で個体数が減少するの?

魚などの海洋資源は適正数だけ獲っていれば再生産することが可能です。
成熟して卵を産み終えた大人の魚を適正数だけ獲っていれば個体数は減らないはずです。
ところが、乱獲により親となる魚の数が減ってしまい産む卵の量が減ってしまうと、次世代の魚の個体数が減ってしまいます。
獲れる魚の量が減っていくと、次世代の魚(=大きくなる前の小さな魚)も獲らざるを得なくなってしまいます。
そうなると、ただでさえ減ってしまった次世代の魚の個体数が減少してしまいます。
魚が成熟して卵を産めるようになるには2~3年ほどの時間がかかります(成熟するまでの期間は魚種により異なる)。
つまり、漁獲量を維持するために大きくなる前の小さな魚を獲るということは、次世代の魚が親になって卵を産む繁殖の機会を奪うということです。
これから卵を産むはずの小さな魚をたくさん獲れば、それだけ次世代の魚の個体数は減ってしまいます。
魚の乱獲はなぜ進むのか
魚の乱獲がここまで加速した背景には、技術の進歩、経済的な需要の拡大、そして管理体制の課題という複数の要因が複雑に絡み合っています。
乱獲の原因は?
魚の乱獲が進んだ主な原因は以下の通りです。
- 第二次世界大戦後、魚群探知機・ソナー・GPSなどの軍事技術が漁業に転用されたため。
- 漁船や漁具が進化・大型化し、魚を根こそぎ獲ることが可能になったため。
- 船の大型化と船内冷凍設備の導入により、長期間にわたる遠洋操業が可能になったため。
- 漁獲が低迷するまで獲り尽くした後、別の漁場へ移動するというサイクルが繰り返されたため。
- 政府による燃料・造船への補助金が、過剰な漁獲能力の拡大を後押ししたため。
- IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)が横行しているため。
第二次世界大戦後、合成素材(ナイロン)製の強靭な網や、魚群探知機・ソナー・GPSなどの軍事技術が漁業に転用されました(Batool et al., 2025)。これにより、かつては「探索」を必要とした漁業が、ピンポイントで魚群を捕らえる「効率的な収穫」へと変貌しました。1990年代以降、これらの技術はさらに高性能化しています。
また、進化した漁具・漁船・冷凍設備により、大量の魚を素早く獲って輸送することが可能になりました。船内冷凍・処理設備の普及によって大型船は数か月間も港に戻らずに操業し続けられるようになり、かつては物理的な限界で守られていた遠方の資源までもが根こそぎ獲られるようになりました。
政府による燃料・造船への補助金は、生態学的な限界を超えた漁船の増加を後押ししました。現在、世界の漁獲能力は持続可能なレベルの2〜3倍に達していると推定されています(Sedyaaw et al., 2025)。
さらに、世界的な人口増加、健康志向や経済発展に伴う水産物需要の拡大、そして持続可能なレベルを超えた漁業への規制が不十分な国があることも、乱獲を加速させる要因となっています。多くの地域で効果的な規制が不足しており、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)が横行していることも見逃せません。
こうした要因が重なった結果、人間は「魚を獲ること」が上手くなりすぎてしまい、資源が再生する速度をはるかに上回るペースで漁獲が行われるようになりました。
漁業の乱獲問題から排他的経済水域(EEZ)の設定へ
第二次世界大戦後の1950〜60年代になると、漁場は沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと拡大していきました。その結果、日本の遠洋漁業生産量はピークの1973年に400万トンに迫り、日本の漁業生産量全体の約4割を占めるまでになりました。
当時は「公海自由の原則」があり、沿岸3海里(約5.5キロメートル)の外であれば、世界中どこでも自由に漁をすることができる時代でした。先進国が発展途上国の漁場でも自由に魚を獲ることができた一方、漁業技術を持たないために漁場が手つかずとなっている発展途上国の資源が乱獲されるという問題も深刻化していきました。
その後、遠洋底びき網漁業がピークを迎えた1970年代に、沿岸国の利益保護を目的として、南米・アジア・アフリカ諸国などを中心に200海里の排他的経済水域(EEZ)が設定されるようになりました。1977年には米国・ソビエト連邦をはじめ、カナダや欧州共同体(EC)諸国も200海里水域の設定に踏み切り、「200海里時代」が到来したため、他国の漁場で乱獲をして、魚が減ったら別の場所に移って乱獲するということはできなくなりました。
現在の漁業管理は、単に「場所を分ける」段階から、科学的根拠に基づき生態系全体を維持する「レジリエンス(回復力)」を重視した管理へと移行することが求められています。
乱獲の対策は?
乱獲への主な対策には、次のようなものがあります。
- 最大持続生産量(MSY)に基づいた漁業管理
- 資源管理法の活用
- 適切な漁獲可能量(TAC)の設定
最大持続生産量(MSY)に基づいた漁業管理
乱獲への対策として重要な考え方のひとつが、持続的に採捕可能な最大の漁獲量「MSY(Maximum Sustainable Yield/最大持続生産量)」です。
鉱物資源や石油資源とは異なり、魚は繁殖により毎年新たな個体が誕生します。しかし、乱獲によって個体数が再生産能力を大きく下回るほど減少してしまうと、繁殖による個体数の維持が困難になっていきます。

- 魚の増加量が最大になるような親魚の個体数を維持する
- 次世代の個体数が増えた分だけ親魚を漁獲する
- 長期的な漁獲量を最大化することができる
上記の手順で、増加分に相当する量だけを漁獲すれば、魚の数は常に最適な水準に維持され、漁業者は毎年持続的に漁獲を続けることができます。簡単にいえば、「元本には手をつけず、利子だけを使う」という考え方です。
この持続的に採捕可能な最大の漁獲量が、Maximum Sustainable Yield(最大持続生産量)で、略称は「MSY」です。
「MSY」は漁業資源管理の基礎となる概念であり、国連海洋法条約第61条でも、200海里の排他的経済水域(EEZ)内における生物資源管理の目標として掲げられています。
資源管理法の活用
魚の資源を管理する手法には、大きく次の3つがあります。
| 方法 | 期待できる効果 | |
|---|---|---|
| 投入量規制(インプットコントロール) | 漁船の隻数・規模・漁獲日数などを制限する | 漁獲圧力を入口の段階で制限できる |
| 技術的規制(テクニカルコントロール) | 漁船設備や漁具の仕様を規制する | 船の数・大きさ・漁具などを規制することで漁獲量を適正水準に抑えられる |
| 産出量規制(アウトプットコントロール) | 漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)の設定などにより漁獲量を制限する | 持ち帰る魚の量に上限を設けることで、出口の段階で乱獲を防げる |
これらの中で乱獲防止に最も効果が高いのは、漁獲量の上限(漁獲枠)を設定する産出量規制(アウトプットコントロール)です。
適切な漁獲可能量(TAC)の設定
魚を獲りすぎないように、魚種別に1年間の漁獲量の上限を設定することを漁獲可能量(TAC/Total Allowable Catch)といいます。TACの配分方式には主に2つあります。

| 方法 | メリット | デメリット | |
|---|---|---|---|
| ダービー方式(オリンピック方式) | TACを早い者勝ちで奪い合う | 漁獲能力の高い大規模漁業者に有利。多く獲れるほど多くの枠を使える。 | 競争激化により操業コストが増大。小規模漁業者には不利。 |
| 個別漁獲枠方式(IQ方式) | TACをあらかじめ個々の漁業者に配分する | 個別枠が確保されるため、急いで漁獲する必要がない。公平性が高い。 | 制度導入時に漁業関係者から反発を受けることが多い。大規模漁業者には不利になる場合がある。 |
ダービー方式(オリンピック方式)の場合
TACをあらかじめ設定し、その枠の中で漁業者が早い者勝ちで漁をするのがダービー方式(オリンピック方式)です。たとえば100トンの漁獲枠があった場合、10人の漁師がその枠を早い者勝ちで奪い合い、合計100トンに達した時点で漁ができなくなります。漁船の規模や設備が大きい漁師ほど多く獲れるため、大規模漁業者に有利な一方、小規模漁業者には不利な仕組みです。

個別漁獲枠方式(IQ方式)の場合
TACをあらかじめ個々の漁業者に配分するのが個別漁獲枠方式(IQ方式)です。たとえば100トンの漁獲枠を10人の漁師で10トンずつ分け合います。個別枠が確保されているため急いで漁獲する必要がなく、高く売れる状態の魚を狙って効率よく漁をすることができます。また、大きな魚を選んで獲ることで小さな魚が生き残ることができるため、乱獲の抑制にもつながります。
公平さがあるのが個別漁獲枠方式(IQ方式)のメリットです。


個別漁獲枠方式(IQ方式)は、乱獲の防止・魚の個体数の維持・漁業者の早獲り競争からの解放という、複数のメリットをあわせ持つ管理手法です。
まとめ
乱獲は、短期的な利益と引き換えに、海の豊かさそのものを失う行為です。
資源管理の目標であるMSY(最大持続生産量)の考え方や、TACによる漁獲枠の設定、IUU漁業の取り締まりなど、対策の手段は存在します。しかし、サメのように繁殖速度が遅く個体数の回復に長い時間を要する生きものにとって、「獲りすぎてから管理する」では手遅れになりかねません。
海の生態系の頂点に立つサメが健全な個体数を保てる海こそ、持続可能な漁業と豊かな海洋環境が両立している証といえます。
乱獲という問題は、漁業者だけの課題ではなく、魚を食べるすべての人が当事者です。
わたしたちひとりひとりの選択、何を買い、何を食べ、何を支持するかが、未来の海をつくります。
参考文献
(1)勝川俊雄『魚が食べられなくなる日』、小学館新書、2016年。
(2)永野一郎、片野歩、勝川俊雄、Wedge漁業問題取材班『魚を獲り尽くす日本人』、株式会社ウェッジ、2014年。
(3)勝川俊雄『図解入門業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ~くわかる本』、秀和システム、2020年。
(4)片野歩『日本の漁業が崩壊する本当の理由』株式会社ウェッジ、2016年。
参考サイト
内閣府『『2 特集 我が国の排他的経済水域等を取り巻く状況』』
水産庁『(1)遠洋漁業等をめぐる国際情勢』
水産庁『(2)我が国の資源管理』
NOAA Fisheries (2020). Status of Stocks 2020. Retrieved [2026.4.12] from [https://www.fisheries.noaa.gov/national/sustainable-fisheries/status-stocks-2020]
FAO (2025, February 10). FAO releases the most detailed global assessment of marine fish stocks to date. Retrieved [2026.4.12] from [https://www.fao.org/newsroom/detail/fao-releases-the-most-detailed-global-assessment-of-marine-fish-stocks-to-date/en]
漁業の問題に関心がある人におすすめの本
魚が食べられなくなる日 / 勝川俊雄
東京海洋大学准教授の勝川俊雄さんの本。
漁業の問題が平易な表現で解説されているので知識がない人でもサクサク読める本です。
乱獲の問題に関心がある人におすすめ。
日本の漁業が崩壊する本当の理由 / 片野歩
水産会社社員の片野歩さんの本。
Q & A形式でわかりやすく漁業の問題を解説。
現役漁師親子を交えた座談会は読み応えあり。

